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■2021年美術展ベスト10

□ 没後70年、南薫造   東京ステーションギャラリー □ モンドリアン展   SOMPO美術館 □ アイノとアルヴァ、二人のアアルト   世田谷美術館 □ ファッション・イン・ジャパン1945−2020   国立新美術館 □ GENKYO横尾忠則   東京都現代美術館 □ マン・レイと女性たち   Bunkamura・ザミュージアム □ 山城知佳子、リフレーミング   東京都写真美術館 □ 諸星大二郎展、異界への扉   三鷹市美術ギャラリー □ 小早川秋聲、旅する画家の鎮魂歌   東京ステーションギャラリー □ 川瀬巴水、旅と郷愁の風景   SOMPO美術館 *並びは開催日順。 選出範囲は当ブログに書かれた展示会。 映画は除く。 *「 2020年美術展ベスト10 」

■ユージーン・スタジオ、新しい海 ■クリスチャン・マークレー、トランスレーティング(翻訳する) ■久保田成子展 

*以下の□3展を観る。 ■東京都現代美術館,2021.11.13-2022.2.23 □ユージ-ン・スタジオ,新しい海 ■会場に入って真っ白なカンバスに先ずは目が吸い付く。 でもこの作品「ホワイトペインティング」は説明を読まなければキス跡を想像できない。 「レインボーペインティング」も同じ。 「目にみえる/みえないものがある・・、異なる認識を受け入れて現実を再認識する・・」。 変化球を投げる画家にみえる。 これが「共にあること」に繋がっていくの。 共生という見方を広げないといけない。 でも言葉が飛躍し過ぎる。 「レインボーペインティング」は何も考えずにじっとみるのがいいわね。 作品「海底」は規模の大きさに驚いてしまった。 鏡を使うから余計に広く感じる。 水槽の枠を目立たないようにすれば水に囲まれているようにみえたはずよ。 次に何がでるか? ドキドキ感があるわね。 そして「善悪の荒野」も。 部屋の焼け跡が素晴らしい。 「2001年宇宙の旅」を題材にしたらしい。 タイトルも意味深い。 多くの作品に複雑な背景が感じられるが素直に観るのが一番かも。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/the-eugene-studio/ □クリスチャン・マークレー,トランスレーティング(翻訳) ■これは面白い。 音楽をダイレクトに文字に変換した作品を前にすると、その変換された文字から音(音楽)が再生するように感じられるから。 これを翻訳と言うらしい。 たぶん再変換が大事なの。 聴覚→視覚→聴覚の流れね。 漫画はこの流れに近い。 そして音と音楽との関係も論じている。 社会から発生する雑音を音楽に変換する作品も多い。 でも、どちらも古臭く感じるのはマルチメディア時代前の作品だから? その為か音楽の表象化・物質化・商品化が直截に展示されていて気持ちがよかった。 「・・言語を信用できない」と彼は言っている。 これも直截に貢献していたかな。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/christian-marclay/ □VivaVideo!久保田成子展 ■ベールを剥がした久保田成子。 彼女の気配は感じていたけれど表立っては登場してこなかった。 「フルクサス」時代から小野洋子やナム

■記憶は地に沁み風を越え ■松江泰治、マキエタCC ■fire/火

■東京都写真美術館,2021.11.6-2022.1.23 □記憶は地に沁み,風を越え 日本の新進作家vol.18 ■作家:吉田志穂,潘逸舟,小森はるか+瀬尾夏美,池田宏,山元彩香 ■記憶・地・風から内容を想像できるが作家6人6様ですね。 科学風、災害ドキュメンタリー、ポートレート、私小説風とバラエティ豊かです。 解説を読んでから作品をみるよりその逆が面白い。 まずは写真からいろいろ感じ取り後に解説を読む。 作者との乖離の大きさが面白い、作品内に言葉があれば別ですが。 次にその乖離を縮めていく。 作者との仮想対話のようなものです。 納得したところで次の作者へ会いにいく。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4033.html □松江泰治,マキエタCC ■「地平線や空を含めない。 被写体に影が生じないように順光で撮る・・」。 これだけでは分からないが作品を見たとたん唸ってしまった。 連なるビルは模型をみているのか!? しかしこれは実物だと自身を説得する自分がいる。 「奥行きが取り除かれあらゆるものが等しく存在する・・」。 平面の謎が浮き出てきます。 写真は奥深い。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4031.html □fire/火 ■プリピクテ賞は初めて聞く。 スイスの投信投資会社ピクテグループが2008年に創設した写真賞です。 今年のテーマは「Fire(火)」で13人の作家が選ばれた。 川内倫子の「花火」は花火と観客の姿が絶妙です。 ファブリス・モンテイロ「ザ・プロフェシー(予言)」はアフリカの公害汚染・環境災害を背景におどろおどろしい衣装を着た預言者が登場する。 世紀末を感じさせます。 ブレント・スタートン「やけどの都」は毎年600万人も火傷するインドの現状を写している。 多くは灯油が原因だが治療設備が少ないため悲惨な状態が迫ってくる。 他にも見応えある作品が並ぶ中身の濃い展示会でした。  *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4035.html

■助教・助手展2021、武蔵野美術大学助教助手研究発表 ■牧野良三、舞台美術における伝達と表現

■武蔵野美術大学美術館,2021.11.29-12.21 □助教・助手展2021 ■助手は知っていたが助教は聞き慣れない言葉だ。 助教授かな? 「教授、准教授、講師の次の職階に位置する・・」(wiki)。 旧来の助手を二つに分けたらしい。 職位を細かくしても窮屈になるだけだと思うが。 展示会は以前の「助手展」が今年から「助教・助手展」になったということである。 研究発表とは大げさな感じがする。 絵画はもとより彫刻・デザイン・建築・映像・芸術文化・・、なんでもアリだ。 このため美術界の現状位置や今後の方向性がよくわからない。 挨拶文に「他研究室が何をしているのかを知る・・」とある。 組織内の風通しを良くする為もあるらしい。 しかし面白い作品が多いし気軽にみることができる。 新しい素材(材料)を扱っているので触ってみたい作品が多い。 作品の横に触れる小サンプルを置いてもらえれば有り難い。 *美術館、 https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/17292/ □牧野良三,舞台美術における伝達と表現 ■会場には実際の舞台模型やデッサン過程の資料が展示されている。 オペラ、バレエ、演劇など多くを手掛けてきているのが分かる。 劇場にはよく行くほうだ。 舞台美術にも興味はあるのだが美術担当の名前まで覚えていない(申し訳ない)。 チラシに「オペラとオペラコンチェルタンテの比較を論じたい」とあったが展示はそのようにはみえなかった。 オペラの欠点は演奏者がピットに隠れて観客からみえないことにある。 指揮者や演奏者も登場人物になりえる。 舞台に立つ必要はないが演者の身体がみえるのは大事だとおもう。 指揮者の頭だけをみても楽しくない。 オペラコンチェルタンテは展示会意図とは違う意味で興味がある。 能が面白いのは地謡や囃子も役者として等しく振る舞うからだろう。 演者の生の身体をフォーカスするのが舞台芸術と言える。 *美術館、 https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/17287/

■川瀬巴水、旅と郷愁の風景

 ■SOMPO美術館,2021.10.2-12.26 ■作品リストの番号が279まで続いている。 版画だからできる展示数ですね。 この量から川瀬巴水の全体像がみえてくる。 旅に始まり旅に終わる作家、旅情詩人だったことを初めて知りました。 東京を起点として「塩原三部作」「旅みやげ第一集」「東京十二題」・・「旅みやげ第二集」「日本風景選集」「旅みやげ第三集」「東京二十景」「東海道風景選集」「日本風景集関東篇」「日本風景集関西篇」「新東京百景」・・「朝鮮八景」「続朝鮮風景」・・。 つまり東京を出発して全国を飛び回り東京に戻り、東京を描き、再び旅に出る。 この繰り返しを強調した展示構成になっています。 版画は絵師、彫師、摺師、担当・工程が別れている。 版元である渡邉庄三郎の存在も強調されている。 チームワークが大事ですね。 巴水は旅先でも版元といつも連絡を取り合っている。 手紙等ではカネの工面などを含め現実的なやり取りをしています。 巴水の作品は後期になると活気のない繊細さが現れてきた。 それを跳ね除けダイナミックさを取り戻すのが朝鮮旅行だった。 40年も描いてきたから不調もあるでしょう。 夏空の雲と木々の緑、遠くの山々、雪の白と欄干の赤、早朝の光に夕暮れどき・・、なんとも言えない、どこか懐かしさもある風景が、どこまでも続く会場でした。 *美術館、 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/kawasehasui/

■ザ・フィンランドデザイン展、自然が宿るライフスタイル ■ファブリックの女王

□ザ・フィンランドデザイン展 ■Bunkamura.ザミュージアム,2021.12.7-2022.1.30 ■フィンランド系展示会が今年は他に(当ブログでは)2展あった*1。 少数の作家に焦点をあてた内容が多い。 でも今回は50人以上が登場するらしい。 はたして会場は暮らしの必需品で一杯。 家具や食器、衣服や装飾、絵画や本・雑誌、玩具までも・・。 総論と言ってもよいわね。 知っている作家は数人しかいない。 会場を見回して一言で表現すると<おおらかさがある>。 これをフィンランドの色と形は持っている。 「大いなる自然を忘れない」ライフスタイルをづっと貫いているのね。 *1、「 アイノとアルヴァ,二人のアアルト 」(世田谷美術館),「 サーリネンとフィンランドの美しい建築 」(汐留美術館) *美術館、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_Finland/ □ファブリックの女王  ■監督:ヨールン・ドンネル,出演:ミンナ・ハープキュラ,ラウラ・ビルン,ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン他 ■(フィンランド,2015年作品) ■上記展示会と同時にこの映画(配信)を観る。 ファションブランド「マリメッコ」の創業者アルミ・ラティアの伝記ドラマよ。 アルミは楽観的で直感的な性格のためか支離滅裂に描かれているの。 煙草と無駄が多く会社経営も放漫にみえる。 しかも酒癖で占いにも頼る。 「花束を集めるように人を集める」。 従業員の科白は彼女を言い当てている。 彼女がいろいろ苦しんでいたことは想像できるけどね。 でも世界の「マリメッコ」に成長した過程がぼやけている。 たぶん戦後世界に<おおらかさ>を提供したから? 映画の彼女はこの真逆にみえた。 実際のアルミ・ラティアはどういう人物だったのかしら? *「 マリメッコ展 」(Bunkamura) *映画com、 https://eiga.com/movie/83412/

■SANAA「環境と建築」、妹島和世+西沢立衛 ■白井晟一入門

■ギャラリー間,2021.10.22-2022.3.20 ■松濤美術館,2021.10.23-12.12 (タイトル順) ■二つの建築展をみてきました。 SANAA展は二人が取り組んでいるプロジェクトの途中経過をまとめたものです。 3階は十数点の全体像を4階はその部分に焦点をあてている。 多くは特徴ある広い屋根と細い柱で展開し、より環境に馴染ませようとしていることが分かる。 それは自然や都市に対してです。 中国(?)で建築中の劇場模型があったが席に顔を近づかせるとなんとなく雰囲気が分かる。 でも実物に座らないと何とも言えない。 未完成の作品展は素人には取っ付き難い内容でした。 「SANAA展」は感じさせる展示でしたが「白井晟一展」は読ませる展示方法です。 白井建築の外観を眺め内観に身を置くと精神が落ち着いていくのが分かる。 展示会も彼の創った空間を論じている。 洞窟のような濃い空気が象徴性や超越性を感じさせ精神を高めていく・・。 彼はコンパクトで廉価な住宅も検討していた。 しかし「安かろう悪かろう」とは一線を引き、どの住宅にも精神の高揚が必要だと考えていたようです。 白井の人間関係が見える展示会でした。 親戚から次々と広がっていく人々との結びつきが面白く語られていく。 彼の思想の成り立ちがわかる。 左右対称の切妻形大屋根をみているとドイツ農村の雰囲気も感じられる。 原爆記念館(案)や親和銀行の増築写真も味がありますね。 展示解説をほぼ読んだので疲れました。 *ギャラリー間、 https://jp.toto.com/gallerma/ex211022/index.htm *松濤美術館、 https://shoto-museum.jp/exhibitions/194sirai/ *「ブログ検索」に入れる語句は、 白井晟一 、SANAA

■小早川秋聲、旅する画家の鎮魂歌

■東京ステーションギャラリー,2021.10.9-11.28 ■小早川秋聲が外遊を煩雑にしていたのを知った。 グランドツアーの類にみえる。 1920年代の旅行は大変だったと思う。 遭難しかけたことも書いてある。 旅中に結婚までしている(?)。 1章「京都修行時代」から始まり2章「異文化との出会い」までは脳味噌が起きない。 旅行地図や葉書をみるのは楽しいが・・。 しかし3階から2階に降りた途端に作品が一変した。 「未来」(1926年)からは脳神経が活動しだした。 「玩具」(大正期)は目が喜ぶ。 ・・「長崎へ航く」「五月晴れ」(1931年)などスカッとした作品が次々と現れ見応えがある。 空気が澄み切っている。 それは3章「従軍画家」に入っても同じだ。 戦争画と言っても静寂が覆い血肉が昇華している。 彼は日中戦争を16世紀の戦国時代の延長として考えているようだ。 刀剣の手入れや茶の湯の人物はまさに中世日本の甦りである。 そして成吉思汗の馬と日本軍馬は同じにみえたはずだ。 時代差を凝縮し表現する、一つの歴史の見方かもしれない。 4章「静寂の日々」では旅の回想に気が休まったと思うが・・、なんとも言えない。 「國の盾」は戦後に何回も改作したらしい。 戦争の傷痕は大きい。 *美術館、 https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202110_kobayakawa.html

■印象派・光の系譜

■三菱一号館美術館,2021.10.15-2022.1.16 ■イスラエル博物館の印象派展は珍しい。 その前に、イスラエルが多くの印象派を所蔵していることは初めて知ったの。 でも富豪の層の厚さをみれば納得! よく知る画家の見慣れない作品が並ぶ展示はウキウキするわね。 知らない画家も数名いる。 ハッサム、レイセルベルヘ、ユリィの3人。 ユリィは3点もありベルリンの街が印象深い。 後期印象派も厚い。 セザンヌとゴーガンが5枚づつ展示されていたのは嬉しい。 そのうち9枚は出会っていたか思い出せない。 気に入ったのは「花咲くリンゴの木」(ドービニー)、「長椅子に座るミシア」(ヴュイヤール)など数点。 気楽に観るにはちょうど良い作品が多かった。 イスラエルを海外旅行先に選ぶことは少ない。 舞台系は日本で時々開催されるが今回のように美術系も増やして欲しいわね。 *イスラエル博物館所蔵 *美術館、 https://mimt.jp/israel/

■諸星大二郎展、異界への扉

■三鷹市美術ギャラリー,2021.8.7-10.10 ■このギャラリーは広いとは言えない。 でも今回の展示会は疲れました。 会場は迷路のようにジグザグに壁で仕切られていて作品量も半端ではなかったからです。 壁には漫画の一部を切り取り4頁つづ貼ってある。 1頁あたり平均5コマで換算すると4頁なら20コマ。 出品リストには78作品とある。 つまり全体では1、560コマになる。 これを1コマづつ目で追いながら読んでいく。 疲れるはずです。 もちろん全部目を通しました。 作品の多くは異界を描きそこに蠢く妖怪で一杯です。 その絵の中は隅々まで意味があるようにみえる。 それもそのはず、背景には世界中の神話や歴史の破片が見え隠れしているからです。 その背景になった資料等も飾られている。 縄文時代の土器、古墳時代の装飾品、曼荼羅、絵巻、東北地方の伝説など。 ニューギニア神話や中国の伝記伝説。 旧新約聖書からグリムやアンデルセン童話も。 美術界からゴヤ、ボス、ダリなどなど。 そして植物学や魚介類も。 ・・。 これらが作品にぎっしり詰まっている。 手に取った漫画の表紙はそのまま異界への扉になる。 その異界の故郷が朧げにみえるのが今回の展示会です。  *美術館、 https://mitaka-sportsandculture.or.jp/gallery/event/20210807/

■甘美なるフランス、ポーラ美術館コレクション展

■Bunkamura・ミュージアム,2021.9.18-11.23 ■ポーラ美術館へ行く場合には1日かかる。 都内で開催する時は必ず観ないと勿体ない。 場内の各部屋の中心に居て十数枚の絵をゆっくりと回りながら眺める気分は最高よ。 調子の良し悪しで気にいる絵がいつも違うの。 今日は「エッソワの風景、早朝」(ルノワール)、「エラニーの花咲く梨の木、朝」(ピサロ)かな。 次に、並んで展示されていた「森の風景」(クロス)と「オーセールの橋」(シニャク)。 「ファルコネッティ嬢」(キスリング)がカール・ドライヤー監督「裁かるるジャンヌ」の女優と知ったのは嬉しい。 今回も文句なしに楽しませてもらったわよ。 *美術館、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_pola/

■ゴッホ展、響きあう魂 ヘレーネとフィンセント

■東京都美術館,2021.9.18-12.1 ■クレラー=ミュラー美術館所蔵展らしい。 映画「 ゴッホとヘレーネの森 、クレラー・ミュラー美術館の至宝」を観ていたのでヘレーネの名も知っていた。 さっそく森は森だが上野の森へ向かう。 1・2章は美術館の宣伝だ。 以下、ゴッホが時代順に展示されている。 ゴッホの作品を均一にくまなく収集していることが分かる。 オランダ時代は初めてみる作品が多い。 素描画が力強い。 「麦わら帽子のある静物」の帽子や壺の白さが新鮮だ。 次からはフランス時代のパリ、アルル、サン=レミ、オーヴェル=シュル=オワーズとお決まりの区分で続いていく。 でも初めての絵が多くあって楽しく観ることができた。 ところで、2章まで付き添っていたヘレーネはいつのまに居なくなってしまった。 これは上記の映画も同じだった。 ヘレーネという人は逃げ足が速い。 彼女はドイツ表現主義とフォーヴィスムをコレクションから当初は外したようだが食べず嫌いが多いのか? しかも旅行中はゴッホのレプリカをいつも携えていたらしい。 作品から信仰に近い何かを感じていたのかもしれない。 よく分からない人物だ。 今回の所蔵展は美術館の断片しかみえない。 クレラー=ミュラー美術館に一度行ってみたいものだ。 彼女の謎が解けるかもしれない。 *美術館、 https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_vangogh.html

■リバーシブルな未来  ■イマドキの野生動物、宮崎学  ■山城千佳子、リフレーミング

■東京都写真美術館,2021.8.27-10.31 □リバーシブルな未来,日本・オーストラリアの現代写真 ■日本とオーストラリアの相異に驚き楽しもうという展示会のようです。 オーストラリアの作品は白塗りした先住民や縫いぐるみの人物、ジャグリングをしている人など物語が前面にでている。 背景の情報を私が持っていないから? 日本の作品はその逆です。 社会にへばり付いている。 畠山直哉「陸前高田」は現在から2011年3月まで遡っていくが、整然しすぎた写真群のため町の開発史をみているようです。 片山真理は装飾に包まれながらも、パラリンピック選手とは違う身体拡張を実践しています。 R・ラングの走り去る風景で始まり、P・パパペトロウ「私の心」の暗いモノクロで女性を写した心象風景で終わる展示でした。 「個人と社会を繋ぐ力」を表現したかったのでしょうか? 「私の心」がいちばん気に入ったのですが、両国の関係性を見つけるのは容易ではなかった。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4027.html □イマドキの野生動物,宮崎学 ■動物の写真は心が和みます。 しかし登場する動物たちは真剣ですね。 襲うか襲われるか毎日が勝負です。 被写体の動物は現代の人間と繋がっている。 「けもの道」は人の通り路でもある。 「死を食べる」では「死体に湧くウジの踊り食いをするツキノワグマ」など異様な作品が多い。 先日観た「 レンブラントの夜警 」のP・グリーナウェイ監督の「ZOO」を思い出してしまいました。 「新アニマルアイズ」になると都会に住む野生動物たちがうごめく。 イマドキが迫ってきます。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4025.html □リフレーミング,山城千佳子 ■映像作品が多くて戸惑いました。 作者本人が本格的なダンサーでありパフォーマーとして多くの作品に登場する。 身体はもちろん声も重視している。 沖縄がまったく違ってみえる。 しかもパフォーマー川口隆夫にここで出会えたのは驚きです。 「土の人」の3画面映像は大戦のアジアと沖縄が混沌となり現前してくる。 新作「リフレーミング」は都合で数分しか見ることができなかった。 それでも刺激的な作品が多く

■縄張りと島、加藤翼  ■夏の風景、寺田コレクションの日本画  ■衣川明子

■東京オペラシティアートギャラリー,2021.7.27-9.20 □縄張りと島 ■何をしている映像なの? バラックのような建物に綱をつけて皆で引っ張っている。 もう壊れそう。 ・・崩れた! 横になっている灯台のような建物を起こそうとしている。 ・・起き上った! これは祭りの山車(だし)と同じかもよ。 ひっぱるのは同じだけど、通りを練り歩かないで広場で立ち上がらせる。 起き上がった達成感を持つこともできる。 馬鹿らしいけど、これは楽しい。 作者の作品で「アンダーグランド・オーケストラ」、「ウッドストック2017」はどこかで出会ったことを思い出す。 この数年で民衆参加の祭の方向へ発展させたのね? ということは、より楽しくなること間違いない!      *美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh241/ □夏の風景 ■先ずは大野俊明「風の渡る道」などの4枚。 一回り大きいから自ずと目がいってしまう。 涼しさはないが風景の雄大さが暑さを凍結させてくれる。 大きい作品といえば西野陽一「竜宮1」。 これは2枚組のはず?  もう一枚の「竜宮2」は青系の涼しい感じだった気がする。 夏の風景としては後者がよかったかな? 加藤翼の祭りの後には、このように落ち着ける作品群が必須よ。 美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh242.php □衣川明子 ■朦朧とした色々が何とも言えない。 夢の中へ誘われそう。 上記2展示を観たあとのデザートとして最高ね。 *美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh243.php

■ココ・シャネル、時代と闘った女  ■ココ・アヴァン・シャネル

■監督:ジャン・ロリターノ,出演:ココ・シャネル,フランソワーズ・サガン他 ■Bunkamura.ルシネマ,2021.7.23-(フランス,2019年作品) ■シャネルは知りません。 そこでウィキペディアを一読して映画館へ行くことにする。 読むのに1時間かかってしまった。 それだけ複雑な人のようです。 ・・なんと!ウィキの文章をそのまま映像にしたようなドキュメンタリー映画でした。 しかし映像の力は強い。 シャネルの出自や男性遍歴から当時の女性の立場・役割を見せつけられます。 仕事中の彼女をみると当に厳しい管理者ですね。 気難しい性格も持っている。 才能がある。 それを時代が管理者から経営者に引き上げた。 同時にナチスへの接近や労働組合敵視など時代に翻弄され続けている。 シャネルが採用したジャージー生地や実用的なスーツは画期的にみえます。 でも香水はよくわからない。 材料や製造に化学が絡むと途中が見えない。 彼女がNo.5の裁判で苦しむのは商品の全体を掴めなかった為もあるでしょう。 1970年頃でも仕事師風老婦人にみえる。 彼女は最期まで戦士です。 誰と闘ったのでしょうか? 慣習・制度・共同体そして国家・・、相手が多過ぎます。 「時代と闘った」とありますが、この副題に落ち着きそうです。 *映画com、 https://eiga.com/movie/94692/ ■ココ・アヴァン・シャネル ■監督:アンヌ・フォンテーヌ,出演:オドレイ・トトゥ,ブノア・ポールプールド他 ■amazon.配信(フランス,2009年作) ■上記はドキュメンタリーだったのでドラマを1本みることにする。 シャネルに関する映画は4本あるが適当に選んだのがこれです。 序幕オーバジーヌ孤児院風景と終幕は鏡階段でのファッションショウに挟まれた、殆どがバルサンとカペルの三角関係を扱っている無難な内容の映画でした。 「アメリ」のトトゥはシャネル役が合いますね。 *映画com、 https://eiga.com/movie/54218/

■YOKOO LIFE、横尾忠則の生活  ■The Artists、横尾忠則

■渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」,2021.7.17-8.22 ■21_21DESIGN SIGHT.GALLERY3,2021.7.21-10.17 (タイトル順) ■今朝の新聞に「サイコマジック」(アレハンドロ・ホドロフスキー著)の書評が載っていた。 評者は横尾忠則。 「エル・トポ」にひっくり返ってしまったことが書いてあった。 私も公開時に千代田公会堂でこれを観てヒックリ返ってしまった記憶がある。 ヌーベルバーグ終焉の時代に、この作品は衝撃的だった。 近年、横尾は新聞書評を精力的に熟している。 評者の中では出番がいちばん多いはずだ。 欠かさず読んでいるが、絵画以上に力を入れているようにもみえる・・! 「ほぼ日曜日」でも彼の書評が展示されていた。 それよりレコードジャケットや書棚に並んだ背表紙を見るのが楽しかった。 彼の好物が小豆とカレーというのも初めて知った。 入院も大好きらしい。 病院の食事は健康的だし・・?  デザインサイトではカルティエ現代美術財団からの依頼で横尾が描いた120人のアーティストの似顔絵が並べてある。 数か月で描いたので体が固まってしまい入院したことを彼は楽しそうに語っていた。 飽きっぽい、忍耐力が無いと彼は言っているが、企業や財団からの依頼はそれを跳ね除けている。 世間を渡るときはメリハリが必要になるのは仕方ない。 *ほぼ日曜日、 https://www.1101.com/hobonichiyobi/exhibition/4226.html *21_21DESIGN SIGHT、 http://www.2121designsight.jp/gallery3/the_artists/

■マン・レイと女性たち

■Bunkamura.ミュージアム,2021.7.13-9.6 ■女性たちの口述はないが、マン・レイのオーラルヒストリーを紐解くような展示会です。 彼の結婚のあらましは・・、ニューヨークで詩人アドン・ラクロラ、パリに行き歌手でモデルのキキ・ド・モンパルナス、モデルのリー・ミラー、ダンサーのアディ・フィドラン、そしてロサンゼルスに戻りジュリエット・ブラウナーと旺盛です。 この5人の女性と多くのモデルが彼の創作空間を形成していたのが分かります。 そしてマン・レイにとっての狂乱の20年代はニューヨークよりもパリだった。 「ダダはニューヨークでは生きて行けない」と彼は言う。 パリのシュルレアリスム運動とマン・レイは相思相愛の仲でしょう。 戦禍が激しくなると彼は写真から絵画に移る。 でも絵は売れない。 戦後は彼の過去作品を再制作・複製・量産していく。 「マン・レイとは誰だったのか?」。 「イジドール・デュカスの謎」を手押し車に乗せ「フェルー通り」をトボトボと歩いていくマン・レイ・・。 彼の位置づけを誇張せずに表した姿かもしれない。 マン・レイという人物を多くの女性から間接的に知ることができた。 そして20年代のパリを巧く切り取った内容でした。 彼が辿った住居や活動したパリの地図を見て、またパリへ行きたくなってしまいました。 *美術館、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_manray/

■風景画のはじまり、コローから印象派へ

■SOMPO美術館,20201.6.25-9.12 ■当美術館では2017年に「 ランス美術館展 」を開催している。 ランス第二弾ということかしら? でも2019年の「 ドービニー展 」もランス美術館蔵品が多かった。 しかも副題は「バルビゾン派から印象派への架け橋」。 今回と副題が似ている。 これを含めると第三弾かもね。 1章はコローで一杯よ。 コローの絵は安心できる。 その理由が分かった。 それは木々をいじくりまわすから。 日本庭園に近づくので安定=安心に繋がるのかもしれない。 2章は「バルビゾン派」。 ルソーが1枚あったけど気に入る。 動物画家の存在も知る。 でも日本のように動物を凝視するような描き方ではない。 風景の一部に徹するのかな? 3章は「版画家の誕生」。 当時の版画は写真と同じね。 後代の画家にとっては版画から先代の情報を得るの。 4章は「ブータン」。 7枚構成だけど港が多い。 海が入ると風景が広がる。 海無しバルビゾンに対抗して1章を割いたのね。 5章は「印象主義の展開」。 ルノワール、シスレー、ピサロまで来ると流石に明るい。 今日も東京は暑かった。 涼むには最適な内容だったわよ。 *ランス美術館コレクション展 *美術館、 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/musees-reims-2021/

■GENKYO横尾忠則  ■海、リビングルーム、頭蓋骨

■東京都現代美術館,2021.7.17-10.17 □GENKYO横尾忠則 ■「原郷から幻堺へ、そして現況は?」。 副題とおりの展示構成で作家横尾忠則の全てが網羅されている。 「アーカイブ」を含め14章と細かに区切られているので通史としても分かり易い。  私が気に入っている作品群は1990年中頃の「地球の中心への旅」に集まっていた。 江戸川乱歩、南洋一郎、山川惣治などに親しんだ彼の幼少年期を夢や時空を超えて描いている内容だが、いま再びまとめて見ることができて嬉しい。 横尾を知ったのは芝居のポスターだったと思う。 舞台からみると唐十郎の状況劇場より寺山修司の天井桟敷が似合う画風だった。 でも心情は唐十郎の舞台に近づいていたはずだ。 彼が画家へ移った時は驚いたが、寺山修司と唐十郎を併せ持った絵は「地球の中心への旅」、続く「死者の書」で完成されたのが分かる。 その後も変質狂のごとく滝やY字路ばかり描いているのをみると目が離せない。 次から次へと変身していくパワーには驚かされる。 「原郷の森」で彼の現況を初めて知った。 狂気のゴッホが爆発したような絵だ! まさに芸術は爆発だ。 寒山拾得に加わり寒山拾得忠則になってしまった。 このような画家に出会えて幸運と言うしかない。   *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/genkyo-tadanoriyokoo/ □海,リビングルーム,頭蓋骨 ■作家:潘逸舟,小杉大介,マヤ・ワタナベ ■展示の多くが映像作品だった。 三人のひとり潘逸舟は海を撮った作品が並ぶ。 海岸に押し寄せてくる波をずっと見ていると不思議な感覚に陥る。 作者の意図は知らないが、この感覚は何とも言えない、いい気分だ。 人類の祖先が海で生活していた名残かもしれない。 閉館時刻が迫るなか他の二作家は上映時間が長かったので省く。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2021/

■隈研吾展、新しい公共性をつくるための猫の5原則

■東京国立近代美術館,2021.6.18-9.26 ■5原則とは「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」を指すらしい。 「やわらかい」は分かった。 残りの四つは? 「孔」は法隆寺建築群の間のようなもので「粒子」はアフォーダンスに似ていて「斜め」は折衷ではなく止揚でもなく「時間」はループ量子重力理論に通じる・・!? クマの言うネコの5原則は難解ね。 でも神楽坂に住み着いている野良猫の行動を観察すれば分かるかもよ。 隈研吾の作品は一味違う。 建築家が避けていたものを形にしようとしている。 それは木材の活用にあるの。 風土や気候など環境に根差した身体及び精神への装飾として使っている。 木材を羽板や庇や格子に適用するので素人ぽく庶民ぽくなる。 例えば「アフォーレ長岡」「プザンソン芸術文化センター」。 「浅草文化観光センター」「南三陸のさんさん商店街」は基礎からまるごとね。 またガラスやアルミ、セラミックやカーボンをパネルや膜、綱にして木材と共用していく。 これで独特な軽さと表現が生れる。 たとえば「高輪ゲートウェイ駅」。 日本の風景にはスッキリ当てはまるけど、西欧のような石の街並みに木材混じりの建物が入ると異化効果が強くなってしまう。 例えば「The Exchange」「オドゥンパザル近代美術館」。 隈研吾の作品はノラネコに合うことが分かったわ。 小規模作品には彼の特長が発揮されているとおもう。 でも大規模作品、特にハイブリッドを好まない場所では木の評価は定まっていないはず。 それには作品の品質維持が大事かな?    *美術館、 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kumakengo/ *「ブログ検索」に入れる語句は、隈研吾

■サーリネンとフィンランドの美しい建築展

■パナソニック汐留美術館,2021.7.3-9.20 ■「 アイノとアルヴァ展 」と比較をするとフィンランド四半世紀の二人の時代差が感じられます。 1873年生まれのサーリネン、1898年生まれアールトの二人が、1917年のロシアからの独立の影響をどれだけ受けたか?です。 今回の展示構成が民族叙事詩「カレワラー」で始まり、次のパリ万国博フィンランド館のナショナル・ロマンティズムで駄目押しをすることでもサーリネンの時代がみえます。 アール・ヌーボーの流れに沿って、どっしりした重みが漂う建物や室内装飾はなんとも言えないリッチな匂いが感じられます。 周囲に石をはめ込んでいる玄関の迫力が只者ではない。 建築に塔が付いているのは伝統でしょうか? 蒲鉾型の正面玄関を持つヘルシンキ中央駅が彼の作品だと今回初めて知りました。 労働者の住宅設計も多いですね。 「椅子は部屋から、部屋は家から、家は環境から、環境は都市計画から」。 彼は言葉通りに仕事を拡大していく。 渡米前後のシカゴ・トリビューン本社案はバットマンが出て来そうなゴシック的上昇感が素晴らしい。 「・・シカゴ派の目指す方向を指している」(ルイス・サリヴァン)。 サーリネンの作品は目が喜びますね。 映像紹介ではフランク・ゲーリーが彼をリスペクトしていたのが印象に残ります。 最期に息子エーロ・サーリネンの、彫刻的曲面が楽しいJFK空港やMIT校舎などの作品が付録として紹介されていました。 *美術館、 https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/21/210703/

■レンブラントは誰の手に  ■レンブラントの夜警

□レンブラントは誰の手に ■監督:ウケ・ホーヘンダイク,出演:ヤン・シックス,エリック・ド・ロスチャイルド,ターコ・デヴィッツ他 ■WEB,(オランダ,2019作品) ■「2018年、レンブラントが描いた肖像画を44年ぶりに発見!」。 それは本物なのか? 並行して富豪が所有する夫婦の対肖像画が売りに出される話が進む。 税金対策のようです。 どちらも画商や美術史家、美術館が入り混じり資金調達や競売での駆け引きに策略を練る。 そしてレンブラントファンにもカメラは入っていく。 旧貴族など個人所有者たちです。 レンブラントへの愛し方は様々ですね。 実を言うと、レンブラントは苦手な画家の一人です。 西欧の近寄りがたい靄が覆っているのを感じるからです。 登場する愛好家たちが羨ましいとも思えません。 *映画com、 https://eiga.com/movie/94330/ □レンブラントの夜警 ■監督:ピーター・グリーナウェイ,出演:マーティン・フリーマン,エバ・バーシッスル他 ■DVD,(オランダ・イギリ他,2017作品) ■グリーナウェイらしい変わった映画ですね。 「夜警」に画かれた人物を物語に生き返らせてレンブラント自身が「夜警」を画いていくストーリーのようです。 モデルを描く場面もあるがそのキャンバスは写さない。 作品そのものを論じることはない。 人間関係を描いた映画と言えます。 彼の3人の妻、サスキア、ヘルーチェ、ヘンドリッキエはもちろん、親戚なども多く登場し混乱するほどです。 そこに性や犯罪をあからさまに語って盛り上げようとしている。 また貿易や新大陸が話題になることからオランダ黄金時代が背景に感じられる。  しかしリアリズムからは程遠くどこまでが歴史的事実なのか怪しい。 夜警が描かれた当時の混乱は当にグリーナウエイ好みと言ってよいでしょう。 *映画com、 https://eiga.com/movie/53123/

■新・晴れた日、篠山紀信  ■世界報道写真展2021

□新・晴れた日,篠山紀信 ■東京都写真美術館,2021.5.18-8.15 ■「天井桟敷一座」をはじめの1枚に持ってきたことに驚く。 次の「日米安保条約反対デモ」をみてその位置づけが分かる。 劇団をデモ隊と同列にしたかったのかもしれない。 しかしデモに向かう女性たちの笑顔がいい。 そのまま、晴れた日のような作品が続く・・。 特に「「明星」表紙」(1972-81)は言うことなし。 ピンクレディー、沢田研二、山口百恵、郷ひろみ、キャンディーズ、西郷秀樹、天地真理、野口五郎、・・。 彼らの最高の笑顔に出会った。 当時でも見ることができない素晴らしい顔だ。 しかし人物画と比べて風景はいただけない。 また後半の人形も時代に追いついていない、四谷シモンの頃は新鮮だったが。 この美術館では珍しく2,3階を使っての展示だが余裕がみえる。 解説書も見易い読み易い。 作品を含め、コロナを寄せ付けないほどの晴れた日差しが気持ちいい。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4019.html *「ブログ検索」に入れる語句は、篠山紀信 □世界報道写真展2021 ■写真技術の進歩で多くが美しい色彩だ、ただし被写体はその逆で複雑だが。 この1年の大事件を思い出させてくれる。 例えばレバノンの爆発事故、いまも続くコロナ状況下の世界、イタリアに留まっている難民の日常、多発する山火事などなど。 イスラエル刑務所の存在も記憶に残る、そしてLGBTや自閉症の人々も。 今年の展示は楽しい写真が少ない、大きな戦争はなかったようだが・・。 世界を振り返るのにもってこいの写真展だ。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4021.html

■イサム・ノグチ、発見の道  ■都美セレクショングループ展2021

□イサム・ノグチ,発見の道 ■東京都美術館,2021.4.24-8.29 ■1章「彫刻の宇宙」の入り口にはブランクーシの垂直性とミロの丸みを重ね合わせたような2mあまりのブロンズ抽象像が立ち並ぶ。 1940年代の彫刻は初めて出会う。 階をのぼり2章「かろみの世界」でのシートメタルを折紙にした1980年代彫刻群も初めてみる。 イサム・ノグチといえば石と提灯しか浮かばなかった。 この2つを新しく加えて彼の全体がみえた感じだ。 「照明は明かりを入れた彫刻だ」と彼は言っているが、しかし提灯は異質にみえる。 空間を追求した結果と聞いているがすっきりしない。 再び階を登り3章「石の庭」に入った途端、その作品群に圧倒されてしまった。 イサム・ノグチは石の彫刻家だとあらためて確信した。 玄武岩の多彩な表面処理も素晴らしい。 「・・石が話しはじめる。 ・・その手助けをするだけだ」。 彼の言葉はミケランジェロに通ずる。 *美術館、 https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_isamunoguchi.html *「ブログ検索」に入れる語句は、ノグチ □都美セレクショングループ展2021 ■東京都美術館・ギャラリー,2021.6.10-6.30 ■ついでに入ったのだが・・、多様なジャンルの作品が一杯で混乱してしまった。 しかし上野を後にしてもイサム・ノグチの石は離れない。 *美術館、 https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_groupshow.html

■アナザーエナジー展、挑戦しつづける力

■森美術館,2021.4.22-9.26 ■「女性アーティスト16名を紹介」。 ・・全員オバアチャン!でした。 しかし作品は力強い。 激動の20世紀を乗り越えてきただけあります。 「挑戦とは生き残らなければならないこと」(アンナ・ベラ・ガイゲル)。 その多くは、現実の厳しさの奥に精神性や純粋性が感じ取れる。 「自分を見つけることは、自分を忘れることである」(キム・スンギ)。 「進ためのエネルギーは、・・良いか悪いか前もって知ることはない」(リリ・デュジュリー)。 「それが一体何なのかを知らずに作品をみることが肝要」(ミリアム・カーン)。 気に入った彼女たちの科白です。 ニュージーランド出身のロビン・ホワイトは「・・太平洋では、個人主義はあまり重要ではない」。 同じ太平洋の島国に住んでいる者にとってはナルホドです。 元気を満タンにしてもらい会場を後にしました。 *美術館、 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/anotherenergy/index.html

■ファッション イン ジャパン1945-2020、流行と社会

■国立新美術館,2021.6.9-9.6 ■展示の流れは、1945-1950年に始まり、1960年代から10年刻みで2010年まで、そして未来へ。 時系列が緊張を減らし全体を観易くしています。 服は作るものから買うものへ、服に合わせるから合う服へ、銀座から渋谷へ、新品から中古へ、幾つもの流れが重なり共鳴しながら現代まで続いているのが分かる。 デザインとデザイナーを結び付けることができるのも展示会の面白さでしょう。 例えば数十年前の有名歌手が着ていた服のデザイナーの名前をいま知ることができ、そのデザイナーの立ち位置が分かり、その時代の流行が見えるという流れです。 今回はマネキンの数も半端でない。 映像も多い。 70年の量が詰まった会場です。 戦後日本ファッション史と言える展示会でしょう。 帰りに、ファッション辞典として使えそうだったので350頁のカタログを購入しました、ファっ! *美術館、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2020/fij2020/

■アイノとアルヴァ、二人のアアルト  ■驚異の三人、高松次郎・若林奮・李禹煥  ■追悼、安齋重男

■世田谷美術館,2021.3.20-6.20 □アイノとアルヴァ二人のアアルト ■1年前の「 アルヴァ・アアルト、もう一つの自然 」展は印象が薄かった。 その理由が分かりました。 二人のアアルトが揃わなかったからです。 今回の展示は、二人でアアルトの全体像を語っています。 会場は豊かな建築関連作品が一杯で満足しました。 ・・リビング、ダイニング、キッチンは中産階級家庭の匂いがする。 豪華でもなければ貧弱でもなく一言でいうなら機能実用的でしょう。 そこにイタリアの影響が混ざり合って精神がより高まる。 木材加工を曲げる技術が家具に入り込んで身体と自然が直に繋がるのもいいですね。 自然を装飾にしたのがバウハウスとの違いかもしれない。 二人が言う「暮らしを大切にする」ことが人生を楽しくする一番です。 *美術館、 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00202 □驚異の三人!!高松次郎・若林奮・李禹煥 ■高松次郎のの「アンドロメダ」シリーズは線と色が波のようなリズムになって身体を刺激し脳味噌を喜ばしてくれます。 *美術館、 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00110 □追悼,安齋重男 ■写真家でした。 上記の李禹煥(リ・ウーハン)との出会いからカメラを持ったようです。 ポートレートはイサム・ノグチ、ヨーゼフ・ボイス、滝口修三などを展示。

■片山利弘、領域を越える造形の世界  ■スカルプチャーズ、彫刻となる場所

■武蔵野美術大学美術館,2021.4.5-6.20 □片山利弘,領域を越える造形の世界 ■「片山利弘の全貌を紹介する初めての展示」とチラシに書いてあった。 彼の名前を聞かないのは海外の仕事が多かったこともある。 日本での本格的な仕事は1980年代からだ。 展示は4期に分けられる・・ 第1期 日本での(初期の)仕事(ー1962) 第2期 スイスでの仕事(ー1966) 第3期 アメリカでの仕事(ー1995) 第4期 領域を越える活動(1977-2013) スイス時代のコラージュ作品から片山独自の形態が登場する。 金属結晶を画像処理で拡大したような精密画が並ぶ。 数学の影響も感じられるが、当時はコンピュータも発達していない。 語学不足のため仕事に制約があったと言っているが、それだけ狭く深く研究していたのだろう。  アメリカ時代はグラフィックを引き続き発展させトポロジーなどを取り入れている。 同時に温かみの有る作品もでてくる。 どれも「Less is more」に向かっているのは確かだ。 第4期に入ると物を扱う作品が多くなる。 それは抽象から具体への流れでもある。 建築装飾や公園設計、彫刻、舞台美術、文房具などに広げていく。 この中で気に入ったのはキャンバスに糸を張ったミクストメディア。 純粋美術に近い作品群だが緊張と弛緩が混ざり合って何とも言えない感覚が訪れる。 同時代の田中一光は展示会などでみていたが、こんかい片山利弘を知って日本のグラフィックデザイナーたちの位置関係がまた少し分かった。 *館サイト、 https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/16441/ □スカルプチャーズ,彫刻となる場所 ■作家:戸谷成雄,船越桂,伊藤誠,青木野枝,三沢厚彦,西尾康之,棚田康司,須田悦弘,小谷元彦,金氏撤平,長谷川さち ■11人の作家が5点前後の作品を展示する内容。 素材や技法、作風は皆違う。 タイトルにあるように作品間の場所の関係性などを考慮しているようだが、どれも傑作ぞろいで気楽に観て回った。 *館サイト、 https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/16432/

■モンドリアン展、純粋な絵画をもとめて

■SOMPO美術館,2021.3.23-6.6 ■モンドリアンの全体像を知ることができた。 会場構成は、ハーグ派様式→象徴主義・神智学傾倒→キュビズム影響→コンポジションの流れかな? 特に初期作品の風景画40点が充実していたようにみえる。 作者の考え抜いた痕跡が風景に現れていて久しぶりに見応えを感じたわよ。 後半はモンドリアンが唱えた「新造形主義」を雑誌「デ・ステイル」で展開したことが述べられているの。 「コンポジション」は過去の表現を積み重ねてできていると思う。 メンバーが要素主義を提唱した時にステイルから彼は脱退したのも頷けるわね。 斜線だけの問題ではなかったはず。 でも年を追うごとに作品に多くを詰め込み過ぎてしまった。 未来を詰め込もうとした初期風景画が過去を詰め込んだ後期抽象画より面白い理由がこれね。  会場は若い人が多かったけど美術系学生かしら? ところでキャプションの説明文は読み応えがあったわよ。 的確な言葉で作品と密に繋がっていて刺激的だった。 *生誕150年記念展 *館サイト、 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/mondrian/

■渡辺省亭、欧米を魅了した花鳥画  ■小村雪岱スタイル、江戸の粋から東京モダンへ

■東京藝術大学・大学美術館,2021.3.27-5.23 ■三井記念美術館,2021.2.6-4.18 (タイトル順) ■二人の名前は聞いたことがない。 ということで先ずは芸大へ出かけました。 渡辺省亭(せいてい)は美術展や美術団体から距離を置いていたようです。 名前が広がらなかった理由でしょう。 省亭の師匠は菊池容斎。 容斎の指導は書道と写生を徹底したそうです。 「書道は、・・筆の運びが自由自在になる」。 特に動物画にそれが野性味として現れている。 この味が「欧米を魅了した」のかもしれない。 植物画や人物画はそれを抑えていますが。 美人画は一度みたら顔は忘れない。 独特な顔形です。 指形が変わっている。 でもなかなかでした。  単眼鏡は必須。 さて次は、上野から日本橋へ・・。 小村雪岱(せったい)は江戸っ子ですね、生まれは東京っ子ですが。 彼の着座の写真をみても分かります。 肉筆画もあるが木版画・装丁・挿絵・舞台美術など多岐にわたりデザイン分野が得意のようです。 溝口健二監督の美術を担当していたのは古映画ファンとして嬉しい。 それ以上に舞台美術を手掛けたことは演劇ファンとして最高です。 作品はどれもサッパリしている。 コクが無いのはヨクが無かったのでしょう。 省亭とおなじ主流派から外れていたのも理解できます。 *東京藝術大学・大学美術館、 https://seitei2021.jp/ *三井記念美術館、 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

■ライフ・イズ・カラフル!未来をデザインする男ピエール・カルダン

■監督:P・デヴィッド・エバーソール,トッド・ヒューズ,出演:ピエール・カルダン,ジャン=ポール・ゴルチエ,シャロン・ストーン他 ■WEB配信,(アメリカ・フランス,2019年作) ■ピエール・カルダンが持つ違和感の答えをみつけた。 師匠ディオールから離れた新未来派のようなデザイン、どこかパゾリーニ監督に似ている容姿や性格、そう、彼の身体には20世紀イタリアが染みついていたのだ。 オートクチュールからプレタポルテへ、メンズへ、家具へ、貴金属へ、パリから飛び出ることができたのはイタリアの力だと思う。 作品が冷たい印象を与えないのはイタリアの情熱だと思う。 カルダンは子供の時から演劇に憧れていたらしい。 コクトーやマレーとの付き合い、モローとの同棲、劇場や映画館の開設、・・こうなると支離滅裂だが。 そして当時の映画、たとえばヌーベルバーグでさえ今から振り返ると彼の影響があったことを感じる。 このドキュメンタリーはなんと!カルダン自身が登場しフィルムが進んでいく。 既に98歳だがしっかりしている(昨年末に亡くなってしまったが)。 さすが!「未来をデザインする男」だ。 *映画com、 https://eiga.com/movie/93369/

■ライゾマティクス_マルティプレックス  ■マーク・マンダース  ■TCAA受賞記念展、風間サチコ 下道基行

■東京都現代美術館,2021.3.20-6.20 □ライゾマティクス_マルティプレックス ■ライゾマティクスとはメディアアート・広告・エンターテインメントから建築・都市開発などの企画・設計・実装をおこなう企業なの。 見所は振付家MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」の舞台かな? オリンピックを意識する時期だし・・。 他の映像・照明機器やロボット、デバイス等々も量を拡充して国立競技場で展開できる、もちドローンもね。 ところで週刊文春4月1日号を読むとMIKIKOも交代させられるらしい? 野村萬斎も辞めているし、このままでは東京オリンピック開会式は(開催できても)最悪になりそう。 式はテーマが一番大事。 近年で良かったのは社会保障制度を取り入れた ロンドン開会式 。 リオはダンスが最高、北京とソチは国家が前面にでていて後味が悪かった。  *館サイト、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/rhizomatiks/ □マーク・マンダース,マーク・マンダースの不在 ■顔のブロンズ像(樹脂も?)は迫力がある。 顔に板が組み込まれているの。 気に入ったわ。 *館サイト、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mark-manders/ □TCAA2021受賞記念展,風間サチコ&下道基行 ■二人の作品は数点だけど京橋や横浜で観ていたのを思い出す。 今回、作者の領域の広さを知ったのは嬉しい。 風間サチコの木版画は漫画と言うより劇画に近い。 忘れかけていたトーマス・マンに彼女がリスペクトしているのもまた嬉しいわね。 久しぶりにハンス・カストルプのサナトリウムや戦場を思い出しながら観てしまった。 *館サイト、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/TCAA_2019_2021/

■写真家ドアノー/音楽/パリ

■監修:クレモンティーヌ・ドルディル ■Bunkamura・ザミュージアム,2021.2.5-3.31 ■ドアノーと言えば写真美術館の壁に貼ってある「パリ市庁舎前のキス」を思い出す。 今回は彼自身の言葉「耳から写真の道へ・・」に沿う音楽に絞った写真展のようだ。 戦後パリ市民は先ずは音楽で潤ったことが作品から見え聴こえてくる。 知らない演奏家が多いが活き活きした下町の生活が甦る。 久しぶりにパリ肌の暖かさに浸れた。 人物写真は被写体にどれだけ近づけるか? ドアノーには良い仲介者がいたようだ。 作家ロベール・ジロー、詩人ジャック・プレヴェール、ピエール・ベッツ(?)、俳優モーリス・パケなどなど。 「写真を撮るために狩りはしない」「ひたすら待ち伏せをするだけ」。 「釣り人」であるドアノーなら尚更彼らが必要だ。 1960年以降になると目がどこに向いているのか分からなくなる。 やはり50年代までが彼の時代かもしれない。 音楽以外は物足りなかった。 でもF・トリュフォーのデカ版があったのは嬉しい。 コロナが終わったらどこに行きたいかって? もちろんパリだ! *美術館、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/ ■水津達大展,風景の行方 ■水が緑になり・・、もう初夏の気分だ。 *美術館、 https://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/box_210310suizu.html

■電線絵画展ー小林清親から山口晃までー

■練馬区立美術館,2021.2.28-4.18 ■1章「晴れやか、誇り高き電信柱」、2章「晴れやか、誇り高き電柱」・・。 なぜ同じようなタイトルが続くのか? それは電信柱・電信線と電力柱・配電線の違いです。 1章は電話で1860年代、2章は電気で1880年代から敷設が始まった。 でも電柱は電柱ですね。 しかも郵便制度もこの時期に開始された。 ネットワーク時代の誕生を見る展示会とも言える。 絵の中に電柱や電線を描くか描かないか? 画家も分かれるようです。 多くの作品は邪魔に見えない。 その時代や都市生活を強調している絵は風景の一部になっているからでしょう。 でも強く意識すれば異様にもみえる。 ここが面白い。 気に入ったのは河鍋暁斎・山岡鉄舟合筆の「電信柱」、川瀬巴水の「東京十二景色」と木村壮八「東京の民家」の幾枚か、チラシに載った小林清親の「富嶽眺望」などなど。 「富士には電信柱もよく似合ふ」。 写真でしたが小出楢重「枯れ木のある風景」は好きな一枚です。 10章には碍子の本物も展示されていたが、玉村方久斗「碍子と驟雨」もいいですね。  これに高架線が入ると完璧になる。 昭和の風景といえば高架線でしょう。 でも当時は蒸気機関車の為まだ見ることができない。 電柱電線が日本の風景から消えるのはもう少し先の事ですかね? *館サイト、 https://neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202012111607684505

■狐の嫁いり、澤田知子  ■永遠の日本、白川義員

■東京都写真美術館,2021.3.2-5.9 □狐の嫁いり ■証明写真をみるとある種の感慨や緊張が感じられる。 試験、免許、入社、パスポート・・・。 会場には証明写真で一杯! でも証明写真ではなくて人物写真と呼ぶらしい。 ポートレイトね。 よーく見ると証明写真にもみえる。 それは「化かしているから」。 どちらの写真も騙す要素が入っているからよ。 だから狐の嫁入りになるのね。 うふふ・・。 *館サイト、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3848.html □永遠の日本 ■これは引き延ばし過ぎかしら!? 感動しないのは粒子が粗いから? 赤、桃、黄に輝く山々は荘厳さが漂う。 でも抽象画を見ているような錯覚にも陥る。 大判にしても迫ってくるとは限らない。 ポスターを見ているような感じかな?  作品は外国では売れたらしい。 山々の色に感動したからよ。 日本には火山はあるし、雪も多いし、四季もある。 山岳信仰も残る。 そこに朝日や夕日を被せるのはよくあること。 「永遠の日本」は自然と信仰から来ていたのね。 *館サイト、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3455.html

■南薫造、まさにニッポンの印象派

■東京ステーションギャラリー,2021.2.20-4.11 ■初めて聞く画家名、1883年広島生まれの南薫造の回顧展です。 先ずは1章「美校時代」そして2章「留学時代」と続く。 1907年に彼は英国へ留学したが水彩画が引き金だったのには驚きですね。 1900年頃の日本は水彩画黄金時代だったことも初めて知った。 3章「帰国後の活躍」に入り受賞歴を重ね終わった頃の1910年代後半から見応えのある作品が並び始める。 水彩と油彩の二刀流です。 南アジア旅行の水彩画が活き活きしている。 旅日記に楽しさが溢れていますね。 後に東アジア旅行が加わるが南と同じ調子です。 そして農村風景の油彩画には親密さが表われています。 副題に「印象派」とあるがそのようには見えない。 でも人物画はイマイチですか。 風景画にみえる人々も人形のようです、・・逆に風景にマッチしているが。 それと静物画もです。 作品数も少ない。 3章の終わり30年40年代は左壁に水彩、右壁に油彩が並ぶ構成です。 左壁の「朝鮮風景」は何とも言えないカラフルな色彩で惚れ惚れします。 右壁にはキャベツ畑が広がる・・。 絵を観る喜びが広がりますね。 久しぶりに至福の時がやってきました。 終章「晩年 郷里での活動」で会場は出口になる。 こんなにも絵画的リズムが合う画家に出会えて嬉しい。 *南薫造没後70年展 *館サイト、 https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202102_minami.html

■吉田博展、美が摺り重なる

■東京都美術館,20201.1.26-3.28 ■吉田博の全体像を初めて知ることができて、いやー!楽しかった。 故ダイアナ妃執務室の写真や瀬戸内海集の帆船くらいしか知らなかったからだ。 ダイアナ妃は版画にターナーの光を見たのかもしれない。 彼の成功はフランスではなくアメリカに向かったことだろう。 「それはアメリカから始まった」をみて、これなら米国で売れる!と確信できるからである。 浮世絵を発展させ現代的に甦えらせている。 しかも人文主義的美学から距離を置いているのもグローバル向けとして相性が良い。 マッカーサーが厚木に降りた時「吉田博はどこだ?」と聞いただけのことはある。 九州男児の活きの良さもいい、黒田清輝をぶん殴ったのはやりすぎだが。 しかし作品はそれを感じさせない。 工数がかかる、しかも共同作業の版画は精神と肉体の抑制が必要だからだろう。 東南アジアやインド旅行は羨ましい。 20世紀前半にこれだけ綿密な計画を立てパワーのある旅をしているのが凄い。 その力を戦争中は従軍画家として大陸に向けている。 しかしこれだけ作品をみると最後は飽きる。 後半、安定感はあるが自然の揺らぎがすくなくなってしまった。 満腹感は120%である。  *吉田博没後70年展 *館サイト、 https://www.tobikan.jp/exhibition/2020_yoshidahiroshi.html

■コンスタブル展、光を描く・・空気が動き出す

■三菱一号館美術館,20201.2.20-5.30 ■1986年伊勢丹美術館展の記録を読み返す。 まったく覚えていないし、コンスタブルが画家名だと知ったのもその時だ。 チラシの「日本では35年ぶり・・」は伊勢丹展を指しているのだろう。 今回は「イースト・バーゴルドのコンスタブル家」から始まる。 彼の戸外制作は印象派とは違う。 光というより気温や湿度を含めての空間を描こうとしているようだ。 「空は自然界の美の源」は画家の言葉だが「太陽」は出てこない。 それにしても初期の作品は深緑が沈み過ぎている。 その中でビビッと響いた2枚がある。 なんとタイトルをみるとターナーだった! 「ペンブローク城」「アイズルワースの船着き場」だ。 ロイヤル・アカデミーの対決は既に前半でついてしまった。 あらためて後半の「ウォータールー橋の開通式」と「出航するユトレヒトシティ」の対決をみても同じ感想を持ってしまった。 風景画先駆者の一人として納得できるが、日本展35年ぶりという長すぎる理由も分かった。 *テート美術館所蔵展 *館サイト、 https://mimt.jp/constable/

■千葉正也個展  ■難波田龍起、初期の抽象  ■小瀬真由子展

■東京オペラシティアートギャラリー,2021.1.16-3.21 □千葉正也個展 ■千葉正也の作品を目の前にすると以前に観たことを思い出させてくれる。 忘れられない作家の一人ですね。 暖かで柔らかそうなモノに溢れた静物画です、がどこかシュール感が漂っている。 土色が前世からの流れを意識させる。 それが剥き出しになったカンバスに納まり、周囲にはモノたちが置いてある・・!? モノは一種の異化効果を狙っているようです。 非日常の絵画の周りに現実を取り込む。 生きた亀が動き回っているのを見ると現実に戻されます。 絵画自身が日常的非日常を表現しているので周囲にモノを置くと再び現実に戻ってしまう。 不思議な展示空間が現実で迷っているようです。 やはり<納まらないカンバス>迄でしょう。 *館サイト、 https://www.operacity.jp/ag/exh236/ □難波田龍起,初期の抽象 ■1950年から70年頃の作品60点が展示されています。 *館サイト、 https://www.operacity.jp/ag/exh237.php □小瀬真由子展 ■夢で見たような物語りの一場面が描かれている。 版画のようにもみえる。 名も無い物語を描くのは度胸があります。 *館サイト、 https://www.operacity.jp/ag/exh238.php

■佐藤可士和展  ■DOMANI・明日展2021

■国立新美術館,2021.2.3-5.10 □佐藤可士和展 ■佐藤可士和の活動を紹介する大規模展は初めてかしら? 赤地に白字の「ユニクロ」は傑作だと思う。 「伝えるべき情報を整理し本質を抽出し誰もが一目で理解できる・・」。 一文字の「T-POINT」やホンダの「N」、楽天「R」は情報をもっていないとイメージが固まっていかない。 とことん削ぎ落して境界にとどまろうとする冒険者かな?彼は。    でも組織名や商品名の入っている作品は素直に入り易い。 例えば「NISSIN」や「MITUI&CO」・・、その中で「明治学院大学」はキリスト系人格教育のイメージがロゴに表れている。 「GU」は一文字延長の為かプラスαが欲しいところ。 デザイン構築を拡張した例として「三井物産アドバタイジング・プロジェクト」が掲げられる。 休息室に展示してあったが三井物産のグローバルでのブランドの確立と認知向上が目的なの。 ローカルでは「ふじようちえん」「団地未来ブロジェクト」などがイコン的ブランドで迫っている。 佐藤可士和のブランド創作活動は未来へ向かう力強いベクトルを持っているのが分かる。 *館サイト、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2020/kashiwasato2020/ □DOMANI・明日展2021 ■「文化庁新進芸術家海外研修制度」を経験した新進作家10人の展示会。 絵画も映像も彫刻も新鮮さを大事にしているはずだし、そこを見たいところね。 実際、観客と近いところに作家も作品もある、特に映像は。 気に入った作品は大田黒衣美「the waiting dog」(2020年)。 飼い主が買物をしているあいだ、近くで待っている愛犬の様子を撮った作品なの。 近くを通る他人への態度や飼い主が戻ってきた時の動作で両者の関係がよく分かる。 20分弱を犬好きには飽きないで観てしまう。 青木麻衣子の写真は気に入ったけど展示方法に無理がでている。 緊張し過ぎかもね 彫刻では袴田京太朗の「軍神」。 軍服姿の像が横たわっている(といより倒れている)。 まるで1991年に倒壊されたレーニン像だわ。 威厳を持ちながら打倒されてしまったところに劇的さが漂っている。 好き嫌いに差がでる作品展だった。 これこそが新鮮といえる証しだと思う。 *館サイト、 https://www

■盗まれたカラヴァッジョ

■監督:ロベルト・アンドー,出演:ミカエラ・ラマゾッティ,アレッサンドロ・ガスマン他 ■WEB配信,(イタリア・フランス合作,2018年) ■カラヴァッジョ作「キリスト降誕」は1969年に盗難に遭い現在も見つかっていない。 この実話を元に作られた作品のようです。 サスペンス系娯楽ドラマで美術系映画からは程遠い。 盗難状況を描いたシナリオ関係者が犯人に狙われる内容です。 ディテールがまとまり切れていない。 しかも主人公の両親の行動が出来過ぎていてサスペンスを台無しにしています。 イタリアではヒットしたようですがイマイチでした。 *映画com、 https://eiga.com/movie/90912/

■ルーブル美術館の夜、ダ・ヴィンチ没後500年展

■監督:ピエール=ユベール・マルタン ■Bunkamura・ルシネマ,2021.1.2-(フランス,2020作) ■準備期間10年、最多動員、予約困難、・・空前絶後。 2019年にルーブル美術館で開催された「没後500年記念レオナルド・ダ・ヴィンチ展」のチラシに掲載されているセリフです。 その回顧展がいま上映されている。 早速観てきました。 この記録破りな様子が撮られていると思ったら大違い。 観客のいない真夜中に、キューレータが展示されている主要作品を学術的内容で一点づつ解説していく流れでした。 美術展の雰囲気はゼロですね。 「聖トマスの懐疑」から始まるのが新鮮でしたが。 「生命感を出すために輪郭をぼかす」「執拗に修正してから描く」「未完成の完成!」・・。 個々の細部は面白いのですが、しかし眠くなりますね。 「生命の律動」「自然の謎」など言い古された言葉で素直に結論しているだけが原因のようです。 科学を意識しているがレオナルドと結びついていかないことが大きい。 キューレータは「レオナルドの開かれた人柄、広い心を展示会で知らせたかった」と言っている。 この映画ではスタッフの苦労話や観客で混雑している昼間のルーブルが見たかった。 *映画com、 https://eiga.com/movie/93635/

■ヘルムート・ニュートンと12人の女たち

■監督:ゲロ・フォン・ベーム,出演:シャーロット・ランプリング,イザベラ・ロッセリーニ他 ■UPLINK吉祥寺,2021.12.25-(ドイツ,2020年作) ■タイトルの12名が載っていたがアナ・ウィンターとスーザン・ソンタグしか知らなかった。 顔を見たら数名増えたが女優やモデルが多い。 彼の妻ジューン・ニュートンも入っている。 前半は彼の作品解説が続く。 当時の時代背景や人間関係、制作の裏話などが面白い。 もちろん写真はコクがあって目が離せない。 流れが単調になり飽きてきた頃に彼の出自の話に移る。 ここでニュートンの謎が溶けた。 それは彼がワイマール共和国に生まれ育ったことにある。 ナチズムが成長していく時代の混乱をモロに受けている。 彼の作品は「レニ・リーフェンシュタールの真似だ」と言われていたがその通り、隠すことはない。 違うのは被写体がリーフェンシュタールから政治精神を抜き取った身体にみえることだ。 そこに現代の差別や女性蔑視とは違う何かが感じられる。  それは豊穣だが無機質の輝きを持っている。 共和国でのユダヤ人の生き方が後々にも表れてしまったのだろう。 彼がピエロのように陽気になるのもそれだ。 後期作品をブッラサイと比較していたがニュートンはここでも都市精神を抜き取ってしまった。 その後にマネキン人形へ進んだのも頷ける。 ところで12人の多くは婆姿で登場するが当時の写真との比較がまた楽しい。 *映画com、 https://eiga.com/movie/93836/

■クリスト、ウォーキング・オン・ウォーター

■制作:イザベラ・ツェンコワ他,監督:アンドレイ・M・パウノフ,出演:クリスト,ヴラディミア・ヤヴァチェフ他 ■ユーロスペース,2020.12.19-2021.1.15(アメリカ・イタリア,2018年作) ■2016年イタリア、イゼオ湖でのクリストの創作過程を追ったドキュメンタリー映画です。 1970年にジャンヌ=クロードと共に発想し50年を経て日の目を見た作品らしい。 クリストは当時80歳を越えているが、行政との弛まない折衝・会議、市民への説明・講演、制作途中や完成後のアクシデント対応で休まる場面が一度もない。 頑固一徹な彼の性格が素晴らしいパワーと情熱を生み出している。 それ以上にスタッフは大変です。 湖上に22万個の立方体フロートを並べ5千トンの鎖で繋げて浮かぶ桟橋を作る・・。 フロート材は白ですがその上に黄色い布を被せる。 彼の作品は布で包まなければいけない。 しかも今回のように<建築>から作る作品は珍しい。 空から見ると布の皺皺が見えて壮観です。 完成後に市民を招待しますが5万人/日も訪れて大混乱に陥る。 入場制限せざるを得ない。 大きな事故もなく終わりましたが、その数か月後に砂漠の中で次の作品を検討している彼の姿には驚嘆します。 当作品「浮かぶ桟橋」は東京湾に作成する案もあったが許可が下りなかったようです。 映画では語られなかったが湖の生態系にも影響があるでしょう。 環境に敏感なオラファー・エリアソンとは違います。 この意味でクリストは20世紀、エリアソンは21世紀型の作家と言えるかもしれない。 *映画com、 https://eiga.com/movie/94251/