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10月, 2017の投稿を表示しています

■オットー・ネーベル展、知られざるスイスの画家

■Bunkamura・ザミュージアム,2017.10.7-12.17 ■これほど中身の濃い描き方とは知らなかった。 会場は11章から成り立っているが、どの章も見応えがある。 彼は建築を志していたらしい。 シャガールやクレーの影響を受けながらも、家々の重なり合う風景やレンガを積み上げた1930年迄の初期作品には彼独自の緻密な感性が形や色に表れている。 それは職人的な気質かもしれない。 転機はゲーテを思い出させる30年代の素晴らしきイタリア旅行だろう。 そこで出会った色彩を音楽や文字へ丁寧に適用してより職人的な作品を作り上げていく。 章が進むほど日本の伝統工芸を見ているような重厚でしかも軽やかな気分を味わう。 途中の章「抽象/非対象」でカンディンスキーとの比較があった。 ネーベルの作品は細胞内を顕微鏡でみている感じだ。 核やリボソーム、ゴルジ体やミトコンドリアがうようよしている。 カンディンスキーの活き活きとした躍動感とは質が違う。 職人芸と芸術芸の強弱差が出ている。 どこまでも彼は建築を意識しているようにみえる。 観終わった充実感も重層的である。 ところでネーベルは舞台俳優やアナウンサーの経験もあるらしい。 舞台写真や映像は残念ながら展示されていなかった。 *館サイト、 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_nebel/

■フランス人間国宝展

■東京国立博物館・表慶館,2017.9.12-11.26 ■「運慶」の帰りに寄りました。 日本の「人間国宝」にならって作られたフランス版のようです。 メートル・ダールと呼ぶらしい。 技と伝統ならフランスではファッションや革製品しか思い浮かびません。 ワインは無形文化財から外れますか? 会場にジャン・ジレルの天目茶碗が一面に置いてあるのには驚きです。 フランス映画をみていると御飯茶碗でコーヒーを飲む場面が時々あります。 フランス人は天目茶碗でコーヒーを飲むのでしょうか? クリスティアン・ボネの鼈甲眼鏡フレームはイヴ・サンローランを思い出します。 ル・コルビュジエやオナシスもボネの顧客のようですね。 マリア・カラスもその一人らしいがオナシス経由でしょう。 そしてセルジュ・アモルソの革バックと続きます。 フランスとエジプトの融合がカッコイイ。 ・・。 今回はミッシェル・ウルトーの傘が一番気に入りました。 これをみて日本には傘の展示会がナゼ少ないのか考えてしまいました。 雨が多いから日常化してしまっている? それでは茶碗が説明できない。 作品の多くは日傘にもみえる。 背景には気候風土の違いがあるようです。 フランスのモノへの愛着や感性の歴史が少し見えた感じです。 日本の人間国宝との対象の違いが面白い。 入口にある4画面の映像は作成過程が分かるので必見です。 *館サイト、 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1866

■運慶

■東京国立博物館・平成館,2017.9.26-11.26 ■三次元の仏像をみるときは視点が全方向へ延びるので混雑度はあまり気になりません。 作品をひと回りできる配置も気に入りました。 背中からみるのも乙なものです。 日本史教科書に載っている慶派仏像の大部分が揃っていて壮観ですね。 無いのは金剛力士像(東大寺、興福寺)くらいですか? 初章が運慶の父「康慶から・・」で始まるのも面白い。 比較することで運慶が見えて来るからです。 デビュー作「大日如来坐像」(円成寺)から既に写実の中にリアルな発現をみることができる。 それは終章の「運慶の息子・・」で再び運慶との違いが何かを考えさせられる展示になっている。 運慶は写実からあるものを変換しようとしている。 それは具体を豊穣な抽象にまで高める力だと思います。 特に脂がのっている時期の「八大童子立像」(金剛峯寺)にはそれが表れている。 芸術をみる喜びがやって来ます。 当時の依頼者も運慶と慶派の微妙な違いを仏教を超えた芸術として無意識的に感じていたのではないでしょうか。 *興福寺中金堂再建記念特別展 *館サイト、 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1861 *「このブログを検索」キーワード、 運慶

■安藤忠雄展-挑戦-  ■安藤忠雄21_21の現場悪戦苦闘

■安藤忠雄展-挑戦- ■国立新美術館,2017.9.27-12.18 ■リングのグレート安藤のように力の入った展示会だわ。 実際のリングは勿論見てないけど。 1960年代前半の世界放浪とスケッチブックは安藤忠雄の原点が詰まっている。 彼はシベリア鉄道でヨーロッパへ、マルセイユから船旅でアフリカ経由、ボンベイから鉄道でインド横断そして日本への帰還は旅行好きならグウの音も出ない最高の行程かもよ。 その時のスケッチブックがまた素晴らしい。 話は飛ぶけど愛犬の名前ル・コルビュジエは長すぎる。 普通はコルとかコルビーでしょ。 でも尊敬のコルビュジエだからね。 安藤は自ら建築した住宅を「使いにくい」「住みにくい」とクライアントに言っているの。 あのコンクリートの塊は日本の風土には合わないし住みたいとも思わない。 住人も苦労しているようね。 でも小さな公共施設、例えば内はドラマチックに外は質素な教会などは彼の特長を十分に活かしている。 特に宗教は合うのかもしれない。 地下へ降りていく作品が多いからよ。 真言宗本福寺水御堂や真駒内滝野霊園頭大仏、また水を使った森の教会も印象に残る。 公共物でも美術館はイマイチね。 水とガラスで展示作品が鑑賞しづらいんじゃないかしら? 終章の「育てる」で安藤が多くの木々を植えているのはコンクリートの功罪から逃げたいのかもしれない。 *国立新美術館開館10周年展 *展示会サイト、 http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/ ■安藤忠雄21_21の現場悪戦苦闘 ■21_21デザインサイト,2017.10.7-28 ■この美術館での展示会は三宅一生とのコラボの面白さがある。 そして企画展ごとにディレクターの顔が見えるのも楽しい。 建物は安藤忠雄作だと一目でわかる。 コンクリートと地下の組み合わせ、そして居心地の悪さでね。 あの狭い階段を下りていく時の息苦しさ、地下ホールの無機質さ、場内の動線の無さ、帰りに通るコンクリートトンネルの暗さ、・・。 何に悪戦苦闘をしているの? 二つの展示会を観ても分かったようで分からない。 *館サイト、 http://www.2121designsight.jp/program/ando2017/ *「このブログを検索」キーワード、 安藤忠雄

■狩野元信、天下を治めた絵師

■サントリー美術館,2017.9.16-11.5 ■狩野元信の絵はどこか暖かさがある。 人々の顔は穏やかであり雪の風景でも柔らかい青葉が目に入るからだろう。 霞みがかった空気にも心が和む。 彼は工房主宰者として能力を発揮したようだが組織の動かし方・広げ方が現代的だ。 それは南宋画家の筆様を再構成し真体・行体・草体の画体を創り出しこの型を工房の柱にしたことである。 しかも漢から和に広げ寺院や幕府だけでなく新興商人などの要望に応えている。 組織人として内に外に見事と言うしかない。 副題に納得! 元信押印の作品は工房作だと思うがどれも素晴らしい。 これも組織活動としての成功例である。 ボストン美術館蔵「白衣観音像」が出品されていたが狩野芳崖の観音像や手塚治虫の仏教漫画を思い出してしまった。 どちらも元信の影響があったのだろう。 この後に続く永徳・探幽の作品を前にする時でも元信を知っていることでより深みのある観方ができるとおもう。 *六本木開館10周年記念展 *館サイト、 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_5/index.html