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■印象派への旅、海運王の夢ーバレル・コレクションー

■Bunkamura.ザミュージアム,2019.4.27-6.30 ■バレル・コレクションをいま観ることができるのは、2014年遺産条約改定で「国外に持ち出さない」条件が緩んだこと、かつコレクション館の改装時期に当たったことが背景にある。 「イギリス海運王ウィリアム・バレルが夢を託した選りすぐりの名画」とあるが・・、彼の絵画の好みや見方は並みだと思う。 スコットランド周辺画家の初期の収集で分かる。 それらは海運業務の合間にホット一息できる身近な絵だろう。 しかし地元から離れていくと彼の心は掴めなくなる。 「19世紀フランス、オランダの落ち着いた作品」を好むのに変わりないが、そこに画商アレクサンダー・リードの存在が被さるからである。 バレルが「リードは良質な絵画とそれを愛でる心を持つ・・」と誉めるようにリードは良心的な画商にみえる。 しかし画商としては彼も並みである。 <並み>というのは<生活を払拭できない>ことである。 ダンカン・フィリップス、ペギー・グッケンハイム、ゲオルク・ビユールレ、パワーズ夫妻、クラーク夫妻等々には芸術へ向かうベクトルが収集品に見える。 バレル・コレクションは並みと並みがぶつかってしまい方向性が見えない。 並みの良さは出ているが・・。 彼らの海への拘り方もその一つだ。 バレルもリードも生活の匂いが感じられる古き良き美術愛好家と言える。 *館サイト、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/

■キスリング展、エコール・ド・パリの夢

■東京都庭園美術館,2019.4.20-7.7 ■こんなに沢山のキスリングに出会えるなんて夢のようです。 人物画は目が大きいから近くから見てウハ! 遠くからみてウホ! 喜びが倍増ですね。 独特な存在感がある。 漫画のような顔ですが漫画の二歩手前で止まっている。 それは視点の定まらない虚ろな目の奥にある感情が昇華して純粋な何者かが現れるリアルとでも言うのでしょうか? 同じように静物画は対象の形相を描いているようで、彼が若い時に惚れこんだセザンヌの形と色を微分したような感触を持っています。 でも点描画のようなミモザの花は微分できなくて彼の良さが出ていない。 キスリング展は2007年に府中美術館*1とそごう美術館*2で開催されたが二展とも素晴らしい内容だった。 ・・実はうろ覚えですが当時の日記をひっくり返すと最高評価になっている。 それから12年も経っているので感慨もひとしおですね。 *1、「 キスリング-モンパルナスの華- 」(府中美術館,2007年) *2、「 キスリング展-モンパルナスその青春と哀愁- 」(そごう美術館,2007年) *館サイト、 https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/190420-0707_kisling.html

■ギュスターヴ・モロー展、サロメと宿命の女たち

■パナソニック汐留美術館,2019.4.6-6.23 ■モローの母や恋人はマジメ人生を送っていたので、彼はファム・ファタルの世界を自由に飛び回れたのかもね。 映像紹介で彼が描く<宿命の女>を「男を破滅させる女」セイレーン、「欲望を追い求める女」メッサリーナやエウロペ、「無垢な女」一角獣の三つに分けている。 でも作品をじっくり見ていると母や恋人まで取り込んでいるようにもみえる。 現実も夢にして、さすが「夢を集める職人モロー」だわ。 気に入った作品は「メッサリーナ」(113番)、「メデイアとイアソン」(116番)、「一角獣」(1885年)、「妖精とグリフォン」(159番)の4点。 どれも怪しい美しさがある。 「出現」(1876年)の線描は晩年にモローが加えたのを初めて知ったの。 この線描で作品が構造的に安定し有名になったのだと思う。 館内「ルオー・ギャラリー」にはエコール・デ・ボザールの写真が飾ってあった。 もちろんルオーは恩師モローと一緒にね。 しかもルオーがモロー美術館の初代館長とは知らなかった! モロー美術館は一度行ったことがある。 確かサン・ラザール駅から歩いて直ぐのはずよ。 独特な雰囲気を持つ美術館だった。 この展示でも写真が一杯飾ってあるから館内の隅々までを思い出してしまった。 パリの街並みまで回想できて楽しかったわよ。 *館サイト、 https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/190406/

■ユーモアてん。/SENSE OF HUMOR

■ディレクター:浅葉克己 ■2121デザインサイト,2019.3.15-6.30 ■ディレクター浅葉克彦はユーモアを探しに世界各国へ出向いたらしい。 それは意外と難しかったと挨拶文に書いている。 たぶん見過ごしてしまうからでしょう。 周りに広がる文脈をもすくい上げる必要があるからです。 しかもそれは多義にわたっている。 同じように会場でも、この面白さはユーモアと言っていいのかな?などなど考えながら見てしまいました。 1.ユーモアは精神を落ち着かせる。 2.ユーモアは永遠の魂をかき回す。 ディレクターはこの二つに留意してくれと言っている。 そう思います。 ユーモアはニヤリ笑いが合っている。 高笑いは精神が高揚し過ぎてしまう。 そしてユーモアはコミュニケーションの中心からズレたところで出現する。 このズレが魂をかき回し、かき回される面白さが人同士を繋ぎ合わせるのです。 *美術館、 http://www.2121designsight.jp/en/program/humor/

■田沼武能写真展、東京わが残像1948-1964

■世田谷美術館,2019.2.9-4.14 ■戦後東京が1964年東京オリンピックへ一直線に向かっていたことを強く感じてしまった。 副題も1964迄だからそのように企画したのかもしれない。 そして戦後3年経った1948年から始まっているので弥が上にも子供は避けて通れない。 子供だらけである。 当時の貧富の差は限られているが作品をじっくり見ているとその差が微かに顔をみせる。 これが田沼の作品を面白くしている。 前半は浅草、後半は銀座を中心に撮っている理由も分かる。 渋谷ハチ公を俯瞰した作品はいつも足を止め嘗め回してしまう。 ハチ公や井の頭線駅、周辺の商店街や看板などに・・。 この作品は人気があるようだ。 商品の値段がわかる写真など、例えば「下町の惣菜屋」(1956年)のコロッケ4円メンチカツ・・をみると当時の生活風景が膨らむ。 玩具や雑誌、オリンピック関連の品々もあり興味が尽きない。 3章「忘れえぬ顔」の文化人ポートレートが展示に厚みを増していた。 世田谷に関係する人を選んだようだが多彩な顔が並んでいる。  写真を見ながら2020年は目的も位置づけも64年とはまったく違うオリンピックになるはずだと改めて考えてしまった。 *美術館、 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00192

■写真の起源、英国  ■志賀理江子、ヒューマン・スプリング  ■戦禍の記憶、大石芳野写真展

■東京都写真美術館,2019.3.5-5.12 □写真の起源 ■会場入口の持ち物検査に驚きました。 たぶん初めてでしょう。 一部の写真は布カーテンが掛かっていてそれを持ち上げて観ます。 温度湿度調整もいつもより厳しい。 しかも薄暗い。 この緊張感から貴重な展示品だと分かります。 多くは1850年前後の英国風景です。 大きな書籍もある。 大英博物館にワープした気分です。 実用ではフランスが先行したがイギリスもW・H・タルボットのカロタイプなどで成果を上げていました。 そして1851年英国万国博覧会で大きく前進する。 ビクトリア朝黄金期が支えたのですね。 以後写真は世界へ広がる。 そして当美術館では馴染みのフェリーチェ・ベアトらと供に日本に辿り着くという流れです。 イギリス初期写真史を初めて齧った手応えはあります。 *館サイト、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3110.html *「このブログを検索」に入れる語句は、 タルボット □志賀理江子 ■2001年宇宙の旅に登場するモノリスの6面に作品を張り付けてドカーンと20個ほどランダムに置いてあります。 その長辺は3m位ですが。 全ての面は「人間の春・何々」という作品名になっている。 2011年東日本大震災の記憶が甦ります。 それにしてもモノリスに圧倒されます。 力強い春です。 *館サイト、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3100.html □戦禍の記憶 ■大石芳野が40年にわたり戦禍の渦に巻き込まれた人々を撮った展示です。 1章メコンの嘆き、2章民族宗派宗教の対立、3章アジア太平洋戦争残像ですが20世紀後半の歴史というより記憶として思い出させてくれます。 ベトナム戦争の枯葉剤、カンボジアのポルポト大量虐殺跡、ラオスの不発弾処理、ソ連撤退後のアフガン紛争、コソボ宗教対立、スーダン民族間紛争、そして日中戦争の傷跡が今でも残る中国、韓国、台湾、沖縄、長崎、広島へ続きます。 この半世紀に起こった戦争紛争に、巻き込まれた住民を加えて再度記憶に詰め直しました。 *館サイト、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3114.ht

■百年の編み手たちー流動する日本の近現代美術ー  ■ただいま/はじめまして

■東京都現代美術館,2019.3.29-6.16 □百年の編み手たち ■リニューアル記念展なの。 でもどこが一新されたのかわからない。 この美術館は3階から1階、地下1階に分かれていて使い難い。 上野の都美術館も同じような構造にみえる。 これはリニューアルで直せない。 百年網羅のため最初は近代美術館の記念展にみえてしまった。 先ず足が止まったのは2章「震災前後」の中原實と牧野虎雄。 この二人は3章「リアルのゆくえ」4章「戦中戦後」にも登場するから前半の中心人物のようね。 それにしても2階の狭い部屋まで展示に使うとは・・。 靉光、松本俊介、梅原龍三郎、国吉康雄、岡本太郎など知名画家も時々顔を出すの。 1章「1914年」はもち岸田劉生よ。 5章「アンフォルメル」までは通時で6章あたりから共時で分散するようね? 以降は環境や資源、媒体、言葉、都市や国際などで章分けしていくからコンガラカル。 山口勝弘、横尾忠則、岡崎乾二郎・・。 ウォーホルが登場するとは!? 森村泰昌、大竹伸朗、村上隆・・。 これだけあると映像は最後まで見る気がしない。 ・・。 14章「流動する現代」は松江泰治の無機質な東京風景で終わる。 でもこういう写真って好きなのよ。 100年の編みものをみるのは体力勝負ね。 *東京都現代美術館リニューアル・オープン記念 *館サイト、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/2019/weavers-of-worlds/ □ただいま/はじめまして ■これは面白い。 約30人の作家が登場する新収蔵作品展なの。 小粒だけど気に入った作品が多い。 「百年の編み手」で疲れてしまった脳味噌を回復できたわよ。  *館サイト、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/2019/pleased-to-meet-you/ *追記・・夕刊に当館記念展の記事が載っていたけど、リニューアルの一つとして子供図書室を新設したらしい。 そういえば子供連れ客が多かったことを思い出した。 あと木場公園との連携も強化されたのは嬉しいわね。 見晴らしが良くなった。 レストランも一新。 展名の「編む」は「編集」にかけていたことも分かった。 なるほど。

■福沢一郎展、このどうしようもない世界を笑いとばせ  ■イメージコレクター・杉浦非水展

■東京国立近代美術館,2019.3.12-5.26 □福沢一郎展 ■福沢一郎は美術協会周辺の画家と一緒に展示することが多い。 今回は本人の作品だけで全体像を浮かび上がらせています。 それだけに作品の量と質が充実している。 彼の履歴書を観たという満腹感があります。 さすがM・エルンストに触発されただけある。 初期作品からはキリコやマグリットなどが感じられます。 また彫刻を最初に手掛けたことを知りました。 作品が持つ立体の故郷を探り当てましたね。 副題に「・・世界を笑いとばせ」とあったがそれは1941年の治安維持法で逮捕される迄でしょう。 以降「笑い」から「怒り」に変わる。 世の中の不合理への怒りは強い。 人間の「業」と考えていくようにもみえる。 戦争が終わり戦後のヨーロッパ、アメリカ旅行でもそれが続きます。 ニューヨークでは、例えば「プラカードを持つ女」などはB・シャーンの影響も伺える。 自由に動き回る為に次々と取り込み消化し続けていますね。 後半の表現はダンテに仏教や社会動向を混ぜ合わせた独特なものです。 シュルレアリスムの風刺性が時代と共に少なくなったのは残念。 それでも福沢一郎の厚さと熱さを感じた展示会でした。 *館サイト、 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/fukuzawa/ *「このブログを検索」に入れる語句は、 福沢一郎 □杉浦非水展 ■杉浦非水は初めて聞きました。 グラフィックデザイナーのようです。 実は彼の作品はみたことがある。 レトロな感覚を持つ東京メトロの広告にです。 他に古い三越デパートも。 会場を回ると見覚えのある作品が次々と現れます。 戦前グラフィックデザインの質の高さが感じられる。 彼は映像にも興味を持っていたようです。 しかし会場の映像はどれもつまらない。 これは趣味の範囲でしょう。 福沢一郎より20年早く生まれていますがが同時代の違った分野同士の面白い組み合わせでした。 *館サイト、 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/imagecollector2019/