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■石宮武二、京のいろとかたち  ■美しい風景写真100人展

■フジフィルムスクエア,2020.1.4-3.31 □石宮武二,京のいろとかたち ■作品の前で思わず動けなくなってしまった。 画面構成、色合い質感どれをとっても完璧に近い。 作品28枚の展示だが全てに日常非日常を越えた存在感が宿っている。 久しぶりに写真を観る喜びがやってきた。 ところで近頃の写真展の多くは凝縮感がない。 パチパチ撮って味噌も糞も一緒に展示してしまうからだろう。 写真環境の劇的な変化もある。 素人でも年に数千枚は撮る時代だ。 プロの推敲を欠かさないで欲しい。 展示会の在り方も考えさせられた。 *館サイト、 http://fujifilmsquare.jp/detail/20010404.html □美しい風景写真100人展 ■ついでに入る。 どれも銀塩プリントの為か回転寿司屋で回っている鮨を眺めているようだ。 風景と鮨は違うが、鮨100枚を展示しても感動の質は変わらないだろう。 それだけ写真が均一化されてしまっている。 *第15回展 *館サイト、 http://fujifilmsquare.jp/photosalon/tokyo/s123/2001040123.html

■ハマスホイとデンマーク絵画  ■第68回東京藝術大学卒業・修了作品展

■東京都美術館,2020.1.21-3.26 □ハマスホイとデンマーク絵画 ■デンマーク絵画の黄金期を初めて知ったの。 それは19世紀前半よ。 知らない画家たちの風景画はなるほど心地よい。 「ほっこり幸せな雰囲気をあらわすデンマークの言葉hygge(ヒュゲ)」のある日常礼賛の世界を描いている。 ヒュゲを掲げる絵が黄金期と称するところが凄いわね。 さすが世界幸福度ランキング上位の国は違う! でも19世紀中頃にナショナリズムが湧き起こるの。 漁師たちを英雄的に描く風景画が増える。 スケーイン派よ。 スケーイン地方はフランス印象派のノルマンディのような位置づけにみえる。 そして19世紀末、愛国主義調「シャロデンボー春季展」に対抗する「独立展」が開催されヨーロッパの流れに乗りながらヒュゲに親密さが加わる室内画へ進む流れかな。 会場はここからハマスホイ。 1890年代の彼の作品は助走段階にみえる。 2階へ上がり1900年代に入った途端、作品の様変わりに圧倒! 10枚以上ある風景画に感嘆! 親密さのある自然とはこういうことだったのね。 そして室内画へ。 「室内」「背を向けた若い女性のいる室内」などを堪能! 人物はやはり後ろ姿がいいわね。 最後の「カード・テーブルと鉢植えのある室内」が素晴らしい。 無機質と言うより昇華した親密さが出ている。 ・・文句のない展示だったわよ。 *館サイト、 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_hammershoi.html *wikiではハンマースホイと書いている □第68回東京藝術大学卒業・修了作品展 ■ハマスホイ会場からチラッと見えたので入る。 会場入口から日本画、建築、デザイン、表現、油絵、ギャラリーでの彫刻、工芸と続く。 下町商店街の縁日ような雰囲気だわ。 ごった煮のような内容と量に圧倒される。 大学構内でも展示しているらしい。 7学科もあるなんて知らなかった。 建築科のシラバスには(調べると)構造材料演習もある。 まるで工学部ね。 演習科目をみれば学科が何を求めているのか分かるのよ。 会場を一回りしたら脳ミソがオーバーフローしてしまい学内展示は無理。 でも作品全体の出来具合から学生たちの素顔も見えてきた。 混沌の卒業作品でハマスホイを忘れそう。 *大学サイト、 https://

■DOMANI・明日2020、傷ついた風景の向こうに

■作家:石内都,畠山直哉,米田知子,栗林慧,栗林隆,日高理恵子,宮永愛子,藤岡亜弥,森淳一,若林奮,佐藤雅晴 ■国立新美術館,2020.1.11-2.16 ■いつものDOMANIと会場雰囲気が違いますね。 キャプションも新人紹介がない。 ・・知っている画家が多い。 「日本博2020」へ参画する特別版らしい。 海外研修を経験した中堅作家を集めてテーマを絞り「20世紀以降に我々が経験した人災や天災で生じた傷痕から時間を経て生まれた作品」を集めたとのことです。 広島・長崎原爆投下、サイパン島玉砕そして東日本大震災、ゴミ問題を9人の作家が取り上げています。 その中で異色なのは栗林親子の昆虫を撮った作品でしょう。 野山で昆虫を接写した映像ですが餌の食べっぷりが豪快です。 昆虫の食事は無関心を装っているが喜びが伝わってくる。 人間と変わりませんね。 一生懸命に生きる昆虫たちのコラボのお陰で他の作家作品がより深く心に響いてきました。 *館サイト、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/domani2020/

■品川工展、組み合わせのフォルム

■練馬区立美術館,2019.11.30-2020.2.9 ■品川工が人の名前かどうか一瞬迷ってしまった。 地名や組織の名前にも見えたからよ。 会場に入ると明るい抽象木版画が迎えてくれる。 直ぐに気に入る。 彼の経歴は面白い。 兄弟で洋食レストランや本屋を経営していた時期もある。 当時の写真をみると服装や髪型からモダンな家族にみえる。 父はクリスチャンでその影響は後々の作品にも見受けられるわね。 版画の種類を増やせたのは光村印刷所へ勤めたことにあるらしい。 木版から紙、板ガラス、樹脂そしてシルクスクリーンへと進む。 でもシルクスクリーン作品は過剰さが目立つ。 結局は木版画が一番かな。 彼の作品にはネガとポジ、彫ると彫らない、付けると付けないなど反転の面白さを重視している。 またモビールやオブジェも制作し、子供向きのような楽しい本も書いている。 彼を知らなかった理由は作品分野を広げてしまい一つ一つが薄くなってしまったからだと思う。 薄いとは趣味が作品に入り込んでしまったからよ。 もう一つはテーマの二項対立を深めなかったから。 でも作品を作る楽しさは伝わってくる。 彼の名前と木版画は記憶に残りそう。 *品川工没後10年展 *館サイト、 https://neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201908121565593487

■永遠のソール・ライター  ■急がない人生で見つけた13のこと

□永遠のソール・ライター,ニューヨークが生んだ伝説の写真家 ■Bunkamura.ザミュージアム,2020.1.9-3.8 ■ソール・ライターは2017年にも開催している。 再び開く理由は?「膨大なアーカイブから世界初公開を・・、知られざる一面を・・」にあるらしい。 初期ピクトリアリスム的な風景の一部を暈しているような作品が中心に置いてある。 濃密な時間・空間がそこには無いが、雨や雪の都会風景は心が和む。 旅行先のローマやパリの作品もイーストヴィレッジの延長だ。 でも作品の多くは日曜画家が、ここでは写真家だが、撮ったようなものを感じる。 彼は写真家H・C=ブレッソンに感激し、画家P・ボナールを敬愛していたらしい。 自宅が紹介されていたが室内にボナール風らしき絵が飾ってある。 絵画は今でも描くのかな? ブレッソンとの関係は見えなかった。 いろいろ気になったので帰宅して関連ビデオを見ることにする。 *「 写真家ソール・ライター展 」(Bunkamura,2017年) *館サイト、 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_saulleiter/ □写真家ソール・ライター,急がない人生で見つけた13のこと ■監督.撮影:トーマス.リーチ,出演:ソール.ライター ■(イギリス&アメリカ,2012年作品) ■自宅ではWi-Fi経由のストリーミングで容易にビデオが観られる。 早速目当ての作品を探し出したが、この数年で映像の観方が大きく変わってしまった。 写真などは撮方も劇的に変わった。 このドキュメンタリーは13章から成り立っている。 副題にもあるように彼の人生観が前面に出ている。 写真論や技術論は敢えて避けている。 彼は宗教世界から逃げて20世紀芸術の時代に上手く乗った人にみえる。 美術展会場では彼のアパートが古めかしく厚みのある姿にみえたが、映画ではゴミ屋敷の二歩手前だ。 「終わることのない、ソール・ライターの仕事場をたずねて」の意味が分かった。 「膨大なアーカイブ」とはゴミの山のことだった。 彼の性格もある。 ゴミのように写真を撮る。 現代の日曜写真家の方法だ。 時代がやっと彼に追いついた。 芸術家という仕事柄、この性格と量が上手く働いたのだと思う。 *映画comサイト、 htt

■ヒトラーVS.ピカソ、奪われた名画のゆくえ

■監督:クラウディオ.ポリ ■(伊仏独合作,2018年作品) ■ナチスが略奪した美術品は60万点もあり10万点が現在も行方不明です。 今でも発見が相次いでいる。 法廷闘争も続いているが所有者の奪還は困難を極めているらしい。 当時は「・・強制収容所から戻った所有者に聞くこともできない」し、今では所有者だったことを証明するのが難しくなっているからです。 A・ヒトラーとH・ゲーリングが競って美術品を略奪する場面が多く映し出される。 特にゲーリングが中心人物のようです。 二人の周囲には多くの美術史家、画商や批評家が取り巻いていた。 その芸術は「ナチスの威厳と美、アーリア人の純粋と幸福をもたらす」しかし「危険のため統制する必要もある」。 この相反する言葉に「大ドイツ芸術展」と「頽廃芸術展」の二つの展示会が対応していたことは言うまでもない。 当時のフィルムで構成されているので迫力があります。 有名な作品が幾つも登場しますが戦禍で消滅する危機にあったことを再認識しました。 それは形を変えて今も続いている。 「芸術家は敏感な政治家であるべきだ。 悲劇に無関心でいてはならない」。 ゲシュタポと向かい合ったピカソの言葉でドキュメンタリーは終わる。 プロパガンダを作らないことが芸術家の一つの条件かもしれない、ピカソのように。 *映画comサイト、 https://eiga.com/movie/90453/

■奈良原一高のスペイン、約束の旅

■世田谷美術館,2019.11.23-2020.1.26 □奈良原一高のスペイン、約束の旅 ■1962年夏、初めてのヨーロッパ旅行は感動を抑えて客観的になろうとする奈良原の姿が写真に現れている。 「老婆のような街・・」・・、パリでの彼の言葉だ。 重厚なドアの前で飛ぶ鳥の影が写るヴェネツィアは一度みたら忘れられない。 「静止した時間」の石の街々。  それが「偉大なる午後・フィエスタ」で一転して感情を解き放つ。 彼は羽目を外し祭りに溶け込んでいく。 祭りが終わって町や村で撮った「バヤ・コン・ディオス」。 「さようなら」と訳すが意味は「神とともにお行きなさい」らしい。 「グアディクス」や「グラナダ」の風景はルイス・ブニュエル1950年代の映画作品を思い出す。 しかし奈良原がスペインの街々の何を撮りたかったのか伝わってこない。 人々の生活の匂いも感じられない。 そして再び祭へ・・、だが「闘牛」にカルメンはいない。 牛のように周囲を駆け回っているだけだ。 祭りが彼の目をシャッターを狂わせてしまったようにみえる。 *館サイト、 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00196      □受け継がれる工芸の技と心そして現代へ *ミュージアムコレクション3 *館サイト、 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00105 □能面師入江美法の世界 ■生身の役者が己の身体を昇華させるのが舞台だ。 しかし面を付けると生身の身体は瞬時にみえなくなる。 シテは昇華された身体で登場し演じ退場する。 能面をみているだけでもそれを追体験できる。 *コーナー展示 □群馬直美,神の仕業-下仁田ネギの一生- ■下仁田葱の甘みまで伝わってくる。 *木の葉の美術館サイト、 https://wood.jp/konoha/index.html

■青木野枝、霧と鉄と山と

■府中美術館,2019.12.14-2020.3.1 ■空間を内に取り込み、外に溶け込んでいるから鉄の重さを感じさせない。 「作品のほとんどが展示場所に合わせて作られる・・」。 室内版ランドスケープとして効果が出ているのね。 気になった作品は「untitled」(1981年)。 鉄棒は太くなく細くなく絶妙な径で大きさも人に近いし尖っていて弛緩と緊張を同時に感じてしまう。 「原形質」(2012年)を間に置いて遠くに眺めるのも味があるわね。 他の作品が丸みがかっているから余計に目立つ。 作者も当時は尖がっていたのかしら?  設計図であるスケッチブックを見ると活き活きしていて動きがある。 現実は鉄の重さや溶接の生々しさから逃げられない。 しかも下町工場の溶接工のような肉体の記憶も作成過程で付着してしまう。 でも置かれた空間の中でみると、それらを跳ね除けて立ち現れるところが清々しい。 *館サイト、 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/noeaoki_kiritotetsutoyamato.html

■ルネ・ユイグのまなざし フランス絵画の精華、大様式の形成と変容

■東京富士美術館,2019.10.5-2020.1.19 ■フランス絵画史の教科書を読んでいるような流れですが面白く観ることができました。 しかもルネ・ユイグが当館コレクションに係わっていたことを初めて知りました。 展示会タイトルはこの美術館の特色を簡素に表しているようです。 初めに「大様式」を語っているが、ルイ14世時代「フランス古典主義」が生れる直前を指しているようです。 ここから「王立美術アカデミー」が生れ、次のルイ15世に入って「ロココ美術」、ナポレオン時代の「新古典主義」、その後の「ロマン主義」へと続いていく。 当館所蔵の絵を核にして海外美術館作品を周囲に配置する構成になっている。 例えばクロード・ロラン「小川のある森の風景」の隣に海外所蔵のロラン2作品を置くようにです。 これがヴァトー、パテル、ブーシェ、ロベール、ルブランなどが同構成で続いていく。 厚みと広がりが出ていますね。 上記画家たちのデッサンが4章にまとめられている。 特にヴァトーのデッサンは素晴らしい。 ドラクロアなどのロマン主義で終わりになるが十分に堪能できました。 最後にマネ?が1枚あったようですが出口付近の構成が雑に感じました。 ピエール・ミニャール「眠るアモル姿のトゥールーズ伯爵」が気に入りました。 ブーシェ「ヴィーナスの勝利」をみた途端、宮崎駿「崖の上のポニョ」に繋がっていると直感しました。 キューピットの目がポニョに登場する魚たちにそっくりだからです。 *館サイト、 https://www.fujibi.or.jp/exhibitions/profile-of-exhibitions/?exhibit_id=1201910051