■シンシナティ美術館展、アメリカに渡ったヨーロッパの至宝

■作家:カミュール・コロー,ジャン=フランソワ・ミレー,ポール・セザンヌ,ギュスターヴ・クールベ,フェルディナント・ホドラー他
■上野の森美術館,2026.10.10-2027.1.10
■シンシナティ美術館所蔵展は、過去にも日本で開催されたことがあったのだろうか。 少なくとも私の鑑賞記録には見当たらない。 どのような作品と出会えるのか期待を抱きながら、上野の森美術館へ向かった。
ところで、「シンシナティ」と聞くと、私にはまずスティーブ・マックイーン主演、レイ・チャールズが主題歌を歌った映画「シンシナティ・キッド」が思い浮かぶ。 もちろん本展とは直接関係はないが、そんな連想を抱きながら会場に足を踏み入れた。
本展では、美術館創立の時代背景に合わせ、主として十九世紀から二十世紀前半にかけてのヨーロッパ絵画が紹介されている。 展示構成は「伝統」「革命」「モダニズム」の三章からなり、「伝統」では印象派前夜の絵画・彫刻、「革命」では印象派、「モダニズム」では表現主義や抽象・具象美術へと展開していく。
作品ごとに見ると、セザンヌ「パンと卵のある静物」(1865年)に秘められた謎を紹介しながら、同時にサロンから冷遇された印象派画家たちの苦難の歴史にも目を向けさせる。 また、ゴッホ「ポプラ林の中の二人」(1890年)は、その揺れ動く筆致によって画家自身の苦悩までも感じさせる。 このように展示作品は、私たちに馴染み深い画家や作品を中心に構成されており、ヨーロッパ近代絵画の流れを親しみやすくたどることができた。
こうしたコレクションは、東海岸の大都市から離れたシンシナティという土地にあっても、ヨーロッパ文化とのつながりを求めた地域社会や市民の熱意によって形成されたものではないだろうか。 本展を見ていると、美術館は単なる作品の収蔵庫ではなく、市民の文化的理想そのものを形にした存在であるように思えてくる。 シンシナティ美術館は、自館とともに歩んできた時代の画家たちを紹介することで、そのコレクション形成の歴史そのものを語っているように感じられた。