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9月, 2024の投稿を表示しています

■魂のまなざし、ヘレン・シャルフベック

■監督:アンティ・ヨキネン,出演:ラウラ・ビルン,ヨハンネス・ホロパイネン,クリスタ・コソネン他 ■配信(フィンランド&エストニア,2020年作) ■ヘレン・シャルフベックを描いたドキュメンタリー風ドラマです。 でも彼女の絵画は未だ観ていない。 フィンランド20世紀前半の日常世界を楽しめる内容でした。 電気も水道もない生活だが、豊かな自然やパリと比較して小柄なヘルシンキが描かれる。 木枠のガラス窓から入る太陽光と夜の蝋燭の光、どちらも暖かさがあります。 女性達の日常着が質素だが素晴らしい。 雑誌ヴォーグを見る場面が何度かある。 当時は雑誌をみて自作するのが普通だったのでしょう。 また男性が三つ揃えの背広で登場することが多い。 この映画はフィンランドで大ヒットしたようです。 このため服装は恥ずかしくないようにしたのかもしれない。 それとも監督の衣装好みかも? 当時の人間関係のありようも分かる。 母と娘ヘレン、兄の力、そしてエイナル・ロイターとの出会い。 そうそう、ヴェスターの立ち位置がよく分からなかった。 単なる女友達ではないはず。 この作品はヘレンのエイナルへの恋愛感情の流れが中心になる。 そしてお互いの成長を肯定して幕が閉じる。 ヘレンの作品が何枚か映し出されたが真実を捉えています。 次回の展示会は見逃さないようにします。 *原題:HELENE *ヘレン・シャルフベック(1862-1946)生誕160年記念作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/96307/

■生きた全体 A Living Whole

■作家:大西麻貴,百田有希 ■ギャラリー・間,2024.9.4-11.24 ■T.S.エリオットの詩の概念「生きた全体」を引用している。 そこから「建築をつくることは、物語を紡ぐことと似ている」と作家は言う。 会場に入ると、童話の世界からやってきたような建築模型が多くみられます。 物語を塗り込んでいく。 「<ある>というより<いる>」「重力から生まれる自然な姿」「質感をともなう形」・・、具体に近づいていきます。 また何を一つとするか?も問うている。 そこから「道としての建築」「外皮を纏う建築」など建築を世界へ、世界を建築に浸透させていく。 ヒトの細胞や組織と同じように呼吸する建築を目指している。 外庭には模型「熊本地震災害ミュージアム」と小枝屋根のあるベンチが置いてある。 4階へ上がると、一部が深紅色のカーテンで覆われた展示になっている。 そして覗くように作品を観る。 まさに童話の世界を覗いているようです。 写真でしか見ていないので実建築の内側を覗いてみたくなりました。 先日観た「平田晃久、人間の波打ちぎわ」展の「からまりしろ」や当展の「生きた全体」などの概念はどれも人間の精神面まで取り込もうとしている。 より荒々しくなりそうな自然に持ちこたえることができるのか? 技術が進んでいるので問題ないはずだが不安も感じられます。 *美術館、 https://jp.toto.com/gallerma/ex240904/index.htm

■ポール・マッカートニー写真展

■東京シティービュー,2024.7.19-9.24 ■ポール・マッカートニーが撮影した1、000枚の中から250枚を選んだ写真展です。 時期は1963年後半から1964年前半とある。 ビートルズのデビューが1962年後半、つまり英国内に名前が広がった頃ですね。 会場に入るとポールのカメラが展示してある。 ペンタックスSV(1962年製)でした。 「いいタイミングでいい場所にたまたま居合わせたその時だけの写真を撮りたい」。 ポールの言葉です。 ビートルズの親密空間が覗けます。 彼らの家族や公演の裏舞台なども多く入っている。 しかし多くのビートルズ写真を過去から見ている為か全ての写真に既視感がある。 そのなかでマイアミのバカンスは初めての写真が多かった。 パリではポールがカメラを向けても意識しない通行人がいる。 ビートルズが未だ知られていないことが分かります。 「オール・マイ・ラヴィング」がどこからか聴こえる・・。 アメリカ公演での空港インタビュー、エド・サリヴァン・ショー、この映像から流れていた。 アメリカ公演(1964年2月)は成功するか? ポールを含め関係者たちの不安が見て取れる。 「ハード・デイズ・ナイト」の中で当時のカメラを操作するのは大変なこと、でも、さすがにポール、まあまあに撮れていました。 1964年以降も続けたのでしょうか? アーカイブを隅々まで探せばまた出てくるかな? *「ナショナル・ポートレイト・ギャラリ」リニューアル・オープン記念展 *美術館、 https://tcv.roppongihills.com/jp/exhibitions/paul-photo/index.html

■田名網敬一、記憶の冒険

■国立新美術館,2024.8.7-11.11 ■これでもか!!と続いていく作品に圧倒されました。 でも、あっけからんとした雰囲気もみえる。 エントロピーだけが大きくなっていく。 増大する現代の情報社会に通じるものがあります。 ・・天井を見上げるとB29爆撃機の大きな模型がぶら下がっている。 襲いかかる艦載機も至る所で目に入る。 目黒の焼け野原から始まり、遊んだ雅叙園、学んだ美術学校、そしてPLAYBOY・11PMなどの仕事世界へ,中国旅行、結核を患い、記憶の旅へ、アンダーグラウンドに出会い、記憶の迷宮、記憶の修築へ、ピカソの悦楽を知り、コラボレーションで幕が閉じる・・。 作家のインタビュー映像を見て謎が解けました。 「・・作成過程で作品はどんどん変化していく」と言っている。 次々と素早く描き足し、次第に画面は詰まっていき身動きが取れなくなる。 映画のコマを画空間にばら撒いたようなものです。 結果、各作品が同じような構造になってしまう。 大病を患った後から<記憶>が前面に出てきますね。 「記憶とは死を意識すること」と本人が言っていた。 この夏に亡くなったことを会場で知りました。 作家の圧倒的記憶で出来たこの展示会を天国から見守っていることでしょう。 *美術館、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/index.html

■英一蝶 ー風流才子、浮き世を写すー

■サントリー美術館,2024.9.18-11.10 ■英一蝶(はなぶさいっちょう)は17世紀末に江戸で活躍した都市風俗画家です。 師は狩野探幽の弟の安信、また芭蕉に俳諧を学んでいる。 しかし47歳(1698年)に三宅島へ流罪、理由の真意は不明と書かれていましたね。 「島一蝶」の意味がわかりました。 島で描いた作品を指すらしい。 1709年の恩赦で江戸再帰後は英一蝶と改めたようです。 作品番号1の「立美人図」を見て記念切手を思い出しました。 あっ、一蝶だったのか! 一度見たら忘れられない姿顔立ちです。 顔も姿も平凡ですが凛々しい。 気に入ったのは作品番号21「吉野・龍田図屏風」。 山や川、そこに松と桜、家々に人々、美人図をそのまま自然に適用したような作品です。 彼は対象物を小さく描く。 このため単眼鏡が必要です。 メトロポリタン美術館所蔵の3枚「地蔵菩薩像」「舞楽図・唐獅子図屏風」「雨宿り図屏風」はどれも素晴らしい。 何冊もの俳句集が展示されていたが当時の字は読み難い。 一蝶に統一感が無いのは狩野派だが風俗画家、絵師であり俳諧師、11年の流罪による不連続しかし、この寄せ集めこそ一蝶でしょう。 遊郭通いを好み、太夫衆でもあり、将軍に盾を突く。 まさに江戸の遊歩者ですね。 *英一蝶没後300年記念 *美術館、 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2024_4/index.html

■サイドコア展、コンクリート・プラネット

■作家:SIDECORE(高須咲恵,松下徹,西広太志) ■ワタリウム美術館,2024.8.12-12.8 ■副題「コンクリート・プラネット」から内容が想像できます。 都市がテーマらしい。 「SIDECORE」は初めて聞くアートチームです。 先ずは2階にいくと、車のヘッドライト、工事中パネルなどが目に入る。 都市らしき絵画や花瓶のような彫刻も置いてある。 「コンピュータとブルドーザの為の時間」(2024年)は鉄管のなかを鉄玉が転がり落ちていく作品です。 転がる鉄音は都市の叫びと言ってよい。 音が響くと2階は夜の都市空間に変貌する。 3階はビデオ作品が多い。 「untitled」(2021年)は羽田空港トンネル内を一人の青年が歩道を歩いていく映像です。 コンクリートの感触やヘッドライトの眩しさが観る者の肉体をも痛く傷つける。 生き物としての肉体に響いてきます。 「emptyspring」(2020年)は観た記憶がある。 渋谷の夜の街でモノやゴミやがひとりでに動いていく。 傑作と言ってよい。 4階の「undercity」(2024年)は暗闇の地下を3人の若者がスケードボードで走り回る映像作品です。 地下こそ都市の裏側でしょう。 ヘッドライトでその裏側=肉体が垣間見える作品でした。 我々はコンクリートを見てガラスを感じ鉄を聴く。 その暗闇へ降りて行き都市の肉体を触ったような感覚が持てる、このような展示会だった。 都市への想像力が活性化しました。  *美術館、 http://watarium.co.jp/jp/exhibition/202408/

■ロートレック展、時をつかむ線

■作家:トゥールーズ=ロートレック ■SOMPO美術館,2024.6.22-9.23 ■「日本初上陸」! フィロス・コレクションのことです。 チラシ文句に誘われて行ってきました。 特徴は素描作品にあるらしい。 副題にも表れている。 1章はその「素描」がズラッと並んでいる。 ロートレックの制作過程に興味がある人には最高かもしれない。 素描のような小さく細かい作品をみる時は観客の少ない日時を選びたい。 今日は休日に重なり珍しく混んでいたのが残念。 素描の続きのような2章はロートレックを取り囲む世間を話題にしている。 カフェ・コンセール、ダンスホール、キャバレー・・、ここに出入りする人々が実名で多く登場するので雰囲気が伝わってきます。 3章は「出版」。 でも当時の書籍・雑誌の位置づけはよく分からない。 4章は「ポスター」です。 普段の展示会はここが中心になる。 よくみる作品が多い。 当コレクションは状態の良いものを厳選していると書いてある。 ポスターなら少しくらいの汚れは気にしないが。 5章は「私的生活と晩年」です。 ロートレックは少年時代に足を怪我している。 この傷が私生活にも作品にも大きく影響している。 「騎手」(1899年)はまるでドガのようです。 また母への手紙も2通あった。 馬や母にロートレックの裕福な生い立ちが感じられます。 またパリ世紀末を想像させてくれる。 会場で配られた小冊子「新宿のムーラン・ルージェ」は新宿の劇場文化を紹介している。 1927年の宝塚歌劇団から始まり、1929年劇団浅草カジノ・フォーリー、ここから新宿へ行き1930年の蝙蝠座、1931年ムーラン・ルージェ新宿座、1934年新宿歌舞伎座、1956年コマ劇場、1964年紀伊国屋ホールまでが簡素に描かれている。 2011年頃の新宿3丁目の地図が載っているが現在との繋がりが想像できて楽しい。 気に入りました。 *フィロス・コレクション所蔵品展 *美術館、 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/#now *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、ロートレック展 ・・ 検索結果は3展 .