■残像

■監督:アンジェイ・ワイダ,出演:ボグスワフ・リンダ,ゾフィア・ヴィフワチ
■(ポーランド,2016年作品)
■長くて発音し難い名前ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキを初めて知った。 画家でありポーランドのウッチ造形美術大学で教える彼の1948年から52年までの4年間を描いた物語である。 師や友人がマレーヴィッチ、シャガール、ロトチェンコと聞けば彼の立ち位置は大凡検討がつく。 そして大学構内の装飾はモンドリアンを思い出させる。
映像内の建物や道路、そこに行きかう人々の衣服は清潔でスキが無い。 部屋はゴミ一つなく塗装の質感も落ち着いた軽やかさがある。 1950年頃のポーランドには見えないが完璧なカメラワークがそれらに有無を言わせない。 つまり監督ワイダは国家と芸術家の関係を描きたかったようだ。 彼の視覚理論やゴッホ批評は断片的に語られるだけである。
ストゥシェミンスキの芸術理論は社会主義リアリズムに合わない。 スターリン主義に傾いていく国家権力は「どちらを選ぶのか?」と彼に迫る。 従わない彼は生活がひっ迫していく。 全体主義者の問答はただ一つ「敵か味方か」「こちら側かあちら側か」しかない。 友人である詩人ユリアンは言う、「我々はあいまいだから」と。 国家は曖昧な人間を嫌がる。 芸術家はあいまいを貫き通せ!と監督は言っているようにみえた。 曖昧の自由は表現の自由を導く。
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