■甲斐荘楠音の全貌

■東京ステーションギャラリー,2023.7.1-8.27
■作品の何枚かは観た記憶があるが甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)という名前は初めて聞きます。 師匠村上華岳をより現実的にした女性画を多く残している。 しかも顔の描き方が独特ですね。 ボヤッとぼやけている、特に目の周りがです。 クマができているのでは? どこか健康に欠けている女性達にみえる。
「金針を持つ女」(1925年)のように岸田劉生風もあるが、当の岸田からは「デロリとした絵」と言われていたらしい。 「島原の女」(1920年)のうつむく目はダ・ヴィンチの聖母子を、また「裸婦」(No.026,1926年)はパスキンを思い出させる。 気に入ったのはダ・ヴィンチを意識した「美人之図」(1929年)。 しかし動きのある舞踊画はデロリのため狂乱化してしまう。 異様な雰囲気です。 「畜生塚」(1915年)は完成していたら大化けしていたかもしれない。
明治大正の画家が歌舞伎などに興味を持つのはよく聞くが、彼の特筆は時代劇映画に携わったことでしょう。 溝口健二監督の何本かは観ているが甲斐荘の名前は憶えていません。 時代・衣装考証など裏方の為ですか。 特に「旗本退屈男」を長く担当していたらしい。 会場には主人公市川歌右衛門の衣装やポスターがずらりと並んでいる。 まさに「越境する個性」ですね。
回顧展の少ない理由がわかりました。 絵画はデロリ、映画は旗本退屈男なら現代ではエンタメの分野になります。