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■わたしたちの国立西洋美術館、奇跡のコレクションの舞台裏

■監督:大墻敦(おおがきあつし),出演:国立西洋美術館職員,今津京子,陶山伊知郎ほか ■川崎アートセンター,2023.8.26-9.8(日本,2023年作) ■国立西洋美術館は2020年10月から1年半の長期休館に入った。 企画展示室の屋根にあたる前庭の雨漏修理、その前庭をコルビュジエ案に戻すことが休館理由らしい。 この期間に撮ったドキュメンタリー映画です。 内容は前庭の工事状況を背景にしながら職員の仕事ぶりを映す。 山形展・富山展概要、ドイツ美術館への貸出、特別展の特徴や作品履歴が重要なこと、作品購入会議などなどを淡々と描いていきます。 館長や職員の横顔も紹介する。  この数十年の間に予算が半減されてヒトモノカネが足りないことを館長は嘆きます。 新聞社等が仕切る特別展の将来不安もある。 内容は保守的にみえます。 仕事が地味にみえる。 モノを扱う部分を多く描いているからでしょう。 これからの美術館はどうあるべきか? 「アジアの人々がこの西洋美術館へ来れば西欧をみることができる・・」、と館長は言っている。 20世紀の延長を目指しているのでしょうか? ドキュメンタリー映画は<モノ>との相性は良いが<情報>を撮るのは難しい。 21世紀の姿は見えてきませんでした。 *映画com、 https://eiga.com/movie/99209/

■デイヴィッド・ホックニー展 ■「あ、共感とかじゃなくて。」 ■被膜虚実、横尾忠則ー水のように

■東京都現代美術館,2023.7.15-11.5 ■ホックニーの近作を観るのは初めてです。 ・・これは楽しい! ピカソに衝撃を受け、その後の「自然主義の罠」を克服した作品を前にすると眩暈がします。 多視点を考慮しているからです。 久しぶりに脳みそがピクピクしだした。 iPadを使っても独特の画風になるのは「世界をどのように描くか」の追求が衰えていないからでしょう。 ノルマンディーの四季は遊び心も一杯ですね。 「ありのままでいろ、好きなことをしろ、人生を楽しめ!」。 彼のメッセージです。 被膜虚実では「山羊を抱く/貧しき文法」(2016年、百瀬文)が一番でした。 「第一次世界大戦中にイギリス海軍が日本軍に大量の山羊を支援として贈ったものの、性的処理用にという支援の意図を理解できなかった日本軍が全てを食用に供してしまった・・・」。 ・・! ここから作者は他者としての山羊と対話を試みる・・。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/ *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/ *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-230715/

■風景論以後 ■何が見える?

■東京都写真美術館,2023.7.19-11.5 ■風景論とは何か? 会場には写真と映像が展示されている。 それらをみても風景論はよくわからない、作者の意図を少しは窺えるが・・。 論がつくとやはり言葉で表現したくなる。 映像作品は10本くらいですか? いつものとおり長編作品は選択にしました。 今回は「略称、連続射殺魔」(1969年作、足立正生ほか監督、86分)を観ることにする。 これは1968年に4都市で発生した「 永山則夫連続射殺事件」を扱った作品で、永山の軌跡を辿る内容です。 彼は、・・生まれた網走から青森へ、そして上京して渋谷フルーツパーラ店に就職。 密航するが失敗。 宇都宮の自動車整備工場へ、守口で米屋へ、羽田空港レストランへ。 盗みで補導。 川崎でクリーニング店へ、新宿で牛乳配達。 再密航が失敗。 杉並で牛乳配達、青森に帰り、長野で自衛隊入隊失敗。 十数回の転職後、横須賀で銃を盗む。 その後も、新宿で喫茶店のボーイを、・・。 永山の就職先の職場や住込み寮を正確に撮影している。 彼が見たであろう故郷や都市の風景をそのままの状態で観客はみることができます。 そして彼が働いていた姿を想像できる。 彼の心情まではわからないが、彼のみた風景がどのようなものだったのか、生々しく伝わってくる。 今みると1960年代の風景は安物に囲まれた重苦しい、しかし妙に活気があります。 貧乏だが貧乏人とは思っていない活気だ。 それは皆が夢を持っていたから。 しかし永山はどうだったのだろう? なぜ何度も密航を企てたのだろう? あの風景が硬直した冷たいモノにみえていたのだろうか? ・・。 大島渚「東京戦争戦後秘話予告編」(1970年、6分)が流れていた。 レネやゴダールを意識した予告にみえる。 因みに私の大島渚ベスト3は「太陽の墓場」「日本の夜と霧」「絞首刑」。 でも、いま観直したらベスト3は違ってしまうかも。 映画も一期一会だからです。 *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4538.html *美術館、 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4536.html

■中川衛、美しき金工とデザイン

■パナソニック汐留美術館,2023.7.15-9.18 ■中川衛(なかがわまもる)は重要無形文化財「彫金」保持者で、特に追求しているのは象嵌です。 「象嵌(ぞうがん)とは金属の表面を鏨(たがね)で彫りそこに異なる金属を嵌め込んで模様を作る技法・・」とチラシにある。 中川はパナソニック(株)で商品デザインを担当していたらしい。 1970年代の電気カミソリやヘアドライヤー、ラジオが展示してある。 当美術館と関係が深いですね。 その後、故郷の伝統工芸加賀象嵌に魅了され彫金家の道に入る。 象嵌は細かい。 作品にぐっと近づいてみる。 それにしても照明が暗い。 作品も暗くなる。 もっと照明を! 「夕映えのイスタンブール」(2011年)の作成過程を映像でみたが1年近くかけている。 必要条件は忍耐ですか? 条件の結果、幾何学的で地味な作品が多くなる。 後継者の問題が雰囲気として伝わってきます。 3章の「国境と世代とジャンルを超えて」でもそれが分かる。 金属を扱う工芸家に若者の成り手が少ないのでしょう。 ジュエリーは人気らしいが・・。 食器や花瓶、建築や衣装(靴)など本体につける模様である象嵌はそれだけで不利です。 現代は(商品としての)本体が優先されるからです。 しかも社会にゆとりがないと模様は衰えていく。 厳しい時代が続く予感がします。 *開館20周年記念展  *美術館、 https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/23/230715/

■甲斐荘楠音の全貌

■東京ステーションギャラリー,2023.7.1-8.27 ■作品の何枚かは観た記憶があるが甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)という名前は初めて聞きます。 師匠村上華岳をより現実的にした女性画を多く残している。 しかも顔の描き方が独特ですね。 ボヤッとぼやけている、特に目の周りがです。 クマができているのでは? どこか健康に欠けている女性達にみえる。 「金針を持つ女」(1925年)のように岸田劉生風もあるが、当の岸田からは「デロリとした絵」と言われていたらしい。 「島原の女」(1920年)のうつむく目はダ・ヴィンチの聖母子を、また「裸婦」(No.026,1926年)はパスキンを思い出させる。 気に入ったのはダ・ヴィンチを意識した「美人之図」(1929年)。 しかし動きのある舞踊画はデロリのため狂乱化してしまう。 異様な雰囲気です。 「畜生塚」(1915年)は完成していたら大化けしていたかもしれない。 明治大正の画家が歌舞伎などに興味を持つのはよく聞くが、彼の特筆は時代劇映画に携わったことでしょう。 溝口健二監督の何本かは観ているが甲斐荘の名前は憶えていません。 時代・衣装考証など裏方の為ですか。 特に「旗本退屈男」を長く担当していたらしい。 会場には主人公市川歌右衛門の衣装やポスターがずらりと並んでいる。 まさに「越境する個性」ですね。 回顧展の少ない理由がわかりました。 絵画はデロリ、映画は旗本退屈男なら現代ではエンタメの分野になります。 *美術館、 https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202307_kainosho.html

■テート美術館展、光・ ターナー・印象派から現代へ  ■蔡國強、宇宙遊<原初火球>から始まる

■国立新美術館,2023.6.29-10.2 □テート美術館展,光・ ターナー・印象派から現代へ ■ブレイクとバーン=ジョンズの挨拶はともかく、ターナーやコンスタブルは分かるが、次にはフランス印象派やハマスホイも登場する。 ターナーの講義資料などもあり難解ですね。 カンディンスキーやマーク・ロスコもあり混乱します。 テーマが<光>だといくらでも言い訳が付く。 しかも会場の解説は取っつき難い。 画家名作品名が入っているからです。 こうなったら次に何が出るか?目が喜ぶか? 後半のキネティック・アートは楽しかったが古さが感じられる。 この20年の進化が激し過ぎます。 テートの「ごった煮美術展」と言ってよい。 台風余波のためか東京の空に躍動感が戻りました。 雲も生き生きしている。 栄養たっぷりの空に大満足です。 まさにモンスーンの空気と光です。 テートにはこの<光>がありません。 *美術館、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/tate/index.html □蔡國強,宇宙遊<原初火球>から始まる ■いわき市四倉海岸「満天の桜が咲く日」をもう一度みたい! 昼花火の傑作です。 火薬絵画は聞きなれない。 日本では<花火>が完成完璧のため周辺へ広まらなかった? 北京オリンピックを含め作者の全体像を初めて知りました。 彼は大陸精神の強さを持っています。 *美術館、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/cai/index.html