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■時間旅行 ■記憶、リメンブランス ■木村伊兵衛、写真に生きる

■東京都写真美術館,2024.4.4-7.7 *以下の□3展を観る. □時間旅行,千二百箇月の過去とかんずる方角から ■作家:宮沢賢治,小川月舟,大久保好六,宮本隆司ほか ■写真は時間旅行の入口です。 それは観る者と作品の間に生まれる。 大久保好六「新宿」(1931年)はラッシュアワーの新宿駅プラットホームを写している。 通勤客の衣装もホームの形も現在の姿とそう違わない。 90年という時間が不思議に滞留しています。 田沼式能「渋谷駅前広場」(1948年)は少し違う。 忠犬ハチ公もいますね。 広場を取り囲む店舗群、その左上に井の頭線渋谷駅の入口が見える・・。 当時と今の風景を重ねると70年が長いのか短いのか眩暈がしてきます。 恵比寿ビール工場の歴史写真を見ながら当時の写真美術館(1990年頃)を思い出してしまった。 周囲が工事中で美術館は仮店舗(プレハブ?)だったはず。 観る者は写真の前ではいつも時間の旅へ飛び立つことができます。 宮沢賢治「春と修羅」との関係は無視しました。 *美術館website、 時間旅行 □記憶,リメンブランス ■作家:篠山紀信,米田知子,グエン・チン・ティ他 ■最初の篠山紀信「家」(1972年ー)は作品の隅々まで嘗め回してしまった。 カレンダーや会社名、家具や置物などなど。 沁みついた生活の重みが迫ってくる。 マルヤ・ピリア「カメラ・オブスクラ」(2011年)は家の内と外を同時に収めている。 両者の色彩の落差と老人の姿は何故かデヴィット・リンチの映画作品を連想させます。 グエン・チン・ティ「パンドゥランガからの手紙」(2015年)。 ベトナムの記憶が伝わってくる。 チャム人は初めて聞きます。 淡々とした映像の流れがメコン川と同期しています。 *美術館website、 記憶 □木村伊兵衛,写真に生きる ■作家:木村伊兵衛 ■上記2展と違い会場が混んでいますね。 さすが木村伊兵衛。 ところで「時間旅行」と「記憶」を比較すると後者が重かったですね。 前者は回想で留まるが、後者は意識に刻みを入れるからです。 木村伊兵衛をまとめて観るのは久しぶりです。 気に入ったのは1章「夢の島ー沖縄」(1936年)。 沖縄の豊かさが画面から溢れている。 日常が充実している。 街での散策と買物、人々の挨拶や会話が聞こえくる。 沖縄は戦前に戻りたいと言っているようで

■遠距離現在 Universal/Remote

■作家:井田大介,シュ・ビン,トレヴァー・パグレン,ヒト・シュタイエル他,地主麻衣子,ティナ・エングホフ,チャ・ジェミン,エヴァン・ロス,木浦奈津子 ■国立新美術館,2024.3.6-6.3 ■「個人と社会の距離感について考える」。 わかり難いテーマです。 距離=情報の量と質や影響を論じているのは想像できる。 9人(組)の作家が登場します。 衝撃的な作品が多い。 シュ・ビン「とんぼの眼」(2017年)はその一つです。 監視カメラ映像11、000時間を編集し物語を被せている。 ドキュメンタリーとも違う。 男性主人公が行方不明の恋人を探す内容だが、中国日常の裏側が不気味に現前してくる。 監視社会を超えてしまう作者のパワーを感じます。 トレヴァー・パグレンは「米国安全保障局(NSA)が盗聴している光ファイバーケーブルのカルフォルニア上陸地点」(2016年)を写真で展示。 国家間に敷設しているインターネット・ケーブルを国家が盗聴していることは常識(と聞いている)。 人類はたった90億人しかいない。 国家は一人一人の情報を容易に膨大に収集している(はず)。 もう一つの作品も衝撃的です。 雑音(嘘)を混ぜたAIの出力を正規AIに取り込み処理し出力した画像(2018年)を展示している。 「男」「ポルノ」「軍人のいない戦争」「蛸」・・、どのタイトルも歪んだ恐ろしい画像になる。 ちょっとした誤りを入力したAIの怖さがでています。 ヒト・シュタイエル他の映像「ミッション完了」(2019年)も面白い。 ファッション・ブランドの有名人を話題にするが、その背後にある政治的・経済的な仕組みを暴いていく討論会です。 資本主義の行き詰まりを描いているのか? デンマークのティエナ・エングホフ「心当たりあるご親族へ・・」(2004年)は孤独死した人の室や家具、持ち物を写真に撮っている。 死亡場所や日時、年齢が記載されているキャプションにも必ず目がいってしまいます。 他にも考えさせられる作品が多い。 時代が大きく転換する時代を生きている。 そう確信させる展示会でした。 *美術館、 遠距離現在

■マティス、自由なフォルム

■作家:H・マティス,A・マルケ,A・ドラン他 ■国立新美術館,2024.2.14-5.27 ■想定外の内容でした。 切り絵の展示会と思っていたからです。 マティスの全体像を描き出していますね。 昨年の「 マティス展 」(都美術館)と比較してしまった。 今回はその簡略版でしょう。 でもマティスファンだから気にしません。 「ニース市マティス美術館」所蔵が9割を占めている。 残りは「オルセー美術館」と「モンテカルロ・バレエ団」です。 前半はマティス30代頃のA・ドランやA・マルケとの出会いを強調している。 途中、バレエ「ナイチンゲールの歌」の衣装や映像で変化を付けています。 彫刻もある。 後半は50代からの線や色彩を純化させた印刷や切り絵が並ぶ。 そして「ロザリオ礼拝堂」で締める。 ニースの気候風土が作品に影響していることがわかります。 でもニースへ行ったことがない。 ニースを感じる展示会と言い直しても良い。 しかも国立新美術館は明るい。 ニースやカルフォルニアがここは似合います。 *美術館、 マティス自由なフォルム

■MUCA展、バンクシーからカウズまで

■作家:バンクシー,オス・ジェメオス,ジェイアール,バリー・マッギー,スウーン,ヴィルズ,インベーダー,リチャード・ハンブルドン,カウズ,シェパード・フェアリー ■森アーツセンターギャラリー,2024.3.15-6.2 ■ミュンヘンの美術館MUCAを初めて知る。 「U」はアーバンのこと。 ストリート・アートに永続性を付加するとアーバン・アートになるらしい。 その境界は微妙に動きそう。 バンクシーやカウズそしてJRは時々見かけるが、知らないアーティストも多く展示されています。 現代アーバン・アートが一望できる。 建物や道路、橋などの公共場所に描いていくがその手段が多彩で激しい。 コンクリートに描くヴィルズは爆薬を使う時もある。 リチャード・ハンブルドンのシャドウ・シリーズは強烈ですね。 ストリートのゴッド・ファーザーと呼ばれるだけある。 ところで「その椅子使ってますか?」は「ナイトホークス」のパロディですがバンクシーにしてはスピリットが直截過ぎる。 気に入ったのはシェパード・フェアリーです。 枯れた赤色を基調に20世紀激動期の政治を現代に甦らせているような作品が刺激的です。 世界のアーバン≒ストリートの動向が追える展示会でした。 MUCAの存在は心強い。 *テレビ朝日開局65周年記念展 *美術館、 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/muca/index.html

■シアスター・ゲイツ展、アフロ民藝

■作家:シアスター・ゲイツ ■森美術館,2024.4.24-9.1 ■作品が地味で広い会場が寂しい。 観客もまばらです。 でも気持ちがいい。 心身にゆとりが生まれます。 副題に民藝とある。 柳宗悦らの活動や作品を想像させます。 それらしき関係はあるようだがシアスター・ゲイツとは何者なのか? 会場途中まで見てもよく分からない。 彼の収集ライブラリや関係施設の写真をみて米国公民権運動、それに続くBLM(ブラック・ライブズ・マター)で活躍しているのを知る。 ジャンルを横断していますね。 常滑焼に興味を持っているようだが彼の陶器はアフリカを思い出させる。 屋根職人の父の影響もあり屋根材料の作品も展示されている。 しかし瓦や壁は興味が無い? アフロ藝術とは何か? 「ブラック・イズ・ビューティフルと日本の民藝運動を融合した」と言っている。 これもよく分からない。 ということで、雑誌「GQ」を売店で購入する。 ゲイツの記事が載っていたからです。 彼は何者なのか? 結局は今も分からない。 ブログはここまでにして雑誌を読むことにします。 そうそう、日本酒も展示されていました。 「門」つまりゲイツという名前です。 *美術館、 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/theastergates/index.html *追記・・雑誌「GQ」を読む。 「・・陶芸の不完全な美に惹かれた」「豊臣秀吉の朝鮮出兵時に陶工を日本に連れて帰ったが、アフロ・アメリカンの歴史に重ねてしまった・・」。 印象に残るゲイツの言葉です。

■宇野亞喜良展 ■難波田史男、没後50年 ■大城夏紀

■作家:宇野亞喜良,難波田史男,大城夏紀 ■オペラシティーアートギャラリー,2024.4.11-6.16 *以下の□3展を観る. □宇野亞喜良展 ■宇野亞喜良の描く少女のイラストは神秘性がある。 ここに理性的なエロティズムが加わる。 寺山修司の演劇ポスターや流行雑誌の挿絵もこの方向を崩さない。 近頃は作品に出会っていません。 この展示会で彼の全体像を知ることができました。 宇野を調べると、日本のイラストレーターやグラフィックデザイナーの殆どが関係しあっていたことが分かる。 1960年代の喧騒が伝わってきます。 しかし彼は影が薄い。 その理由がインタビュー映像を見て分かりました。 「一般人を意識していない」「前衛ではない」。 企業人として仕事をしていた為でしょう。 そして<日常の女性>を<非日常の女性>に進化させた。 企業広告時代のプロ意識をそのまま維持しながら作品を作り続けていった。 イラストレーター名誉職人ですね。 *美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh273/ □特別展示没後50年難波田史男 ■難波田史男の履歴をみて驚く。 瀬戸内海でフェリーから転落死、とある。 享年32歳。 夕焼色の連作「題名不詳」(1963年)が気に入りました。 *美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh/detail.php?id=299 □大城夏紀 ■これは楽しい。 春に包まれた贈答品です。 *美術館、 https://www.operacity.jp/ag/exh/detail.php?id=300

■北欧の神秘、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画

■作家:ガーラル・ムンチ,テオドール・キッテルセン,アウグスト・ストリンドバリ,アクセリ・ガッレン=カッレラ,フーゴ・シンベリ他 ■SOMPO美術館,2024.3.23-6.9 ■北欧3国が入り混じって見分けがつかない。 遠国からみれば日本・韓国・北朝鮮がどれも同じに見えるのと似ている。 フィンランドは平地でノルウェーに向かうほど険しい山々になるはず・・、風景画では実際そうみえます。 ただし作品タイトルに「ノルウェー」とあるにも関わらず所蔵館はスウェーデンやフィンランドが多々ある。 やはり混乱しますね。 3国の関係がまったく掴めない。 長閑な自然風景を期待していたが最初だけでした。 19世紀末からはフランス美術界の影響が強くなるからです。 もちろん印象派の存在は大きい。 でもゴーギャンの名前がよく登場しますね。 北欧は総合主義から象徴主義に向かったようにみえる。 これに神話や民話が結びついていく。 展示は「都市」で締めくくっている。 雪が止んだ一時の都会風景が多い。 「そり遊び」は楽しいでしょうね。 しかし貧困も目立つ。 ムンク「ベランダにて」の二人は都市の身体を感じます。 19世紀後半以降の北欧は西欧(フランスなど)の影響を受けっぱなしにみえる。 3国の位置づけが朧気に見えた展示会でした。 *美術館、 https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/magic-north/

■中平卓馬、火・氾濫

■東京国立近代美術館,2024.2.6-4.7 ■中平卓馬の写真が載っている雑誌をそのまま展示している! つまり1960・70年を会場へ一緒に連れてきたのだ! 雑誌「現代の眼」と寺山修司を通して彼が写真の道に入ったことを知った。 「現代の眼」は読み易い雑誌だった。 タイトルは「朝日ジャーナル」のようで、内容は「文芸春秋」を左翼化したようなものだった。 彼の写真は当初から雑誌向けだろう。 切り取り方は斬新だが世間・報道の匂いが強い。 いま見てもそう思う。 会場前半は「アサヒグラフ」「朝日ジャーナル」「アサヒカメラ」などアサヒ系がズラッと並ぶ。 それと「映画批評」も。 文章は読む気がしない。 写真だけ摘まみ食いをしていく。 後半の「4章 島々・街路」あたりからやっと写真展らしくなっていく。 壁に並んだ作品群はやはり迫力がある。 会場の終わりに八戸市での映像(2005年)を見たが彼は1970年頃の姿のままだった。 この時代はもはや凍結してしまったのかもしれない。 *美術館、 https://www.momat.go.jp/exhibitions/556

■安井仲治、僕の大切な写真

■東京ステーションギャラリー,2024.2.23-4.14 ■未知の写真家です。 いちど観ておきたい。 ということで東京駅に行ってきました。 安井仲治は若い頃に写真を始めたが、1931年に国内で開催した「独逸国際移動写真展」を観て変わっていく。 新興写真の洗礼を受けたのです。 ピクトリアリスムから離れてフォトモンタージュ技巧を取捨しながらシュルレアリスムに近づいていき「半静物」を考案しデペイズマンに取り組んだ。 「物自体、事自体に潜む驚異と秘密を探る・・」。 彼の言葉です。 初期の「クレインノヒビキ」(1923年)はまるで絵画です。 魚介類の干物には豊かさがある。 中期以降はシュールな静物画より風景や肖像作品が気に入りました。 たとえば労働者のポートレイトや演劇役者、デモ隊、サーカス芸人等々・・。 また20世紀前半の日本写真界動向を安井の作品から推測できる展示になっている。 この激動の中を彼は疾走したのが見えてきます。 *美術館、 https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202402_yasui.html

■豊嶋康子、発生法ー天地左右の裏表 ■シナジー、創造と生成のあいだ ■歩く、赴く、移動する1923→2020

*以下の□3展を観る. ■東京都現代美術館,2023.12.2-2024.3.10 □豊嶋康子,発生法-天地左右の裏表 ■木片を組み合わせた画板のような作品が並んでいる。 授業の木工製作? そして、くす玉!? 混乱します。 超長算盤や反転マークシート、二色碁石をみて作者の意図が少し見えてきました。 曲がった定規や削った鉛筆をみると小学生時代の悪戯を思い出します。 なんと!作者の義務教育時代の通知書や表彰状、卒業証書、そして預金通帳、株式取引、株券などなど本物?がそのまま展示されている。 これは衝撃ですね。 誰もが同じ書類を同じ量だけ家に保管してあるからです。 他人の小中学時代の通知書や学級委員証書を見ながら、久しぶりに自分の過去を振り返ってしまった。 変わった体験でした。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/toyoshima_yasuko/ □シナジー,創造と生成のあいだ-MOT・ANNUAL2023 ■作家:荒井美波,後藤映則,(euglena)他 ■<生成>とはコンピュータやプログラムそして人工知能を利用して半自動で作品を創造する意味らしい。 半自動の残りは作家の創造ですか。 先ずは後藤映則の光と素材で人や物の動きを立体映像にする作品が面白い。 暗くて仕掛けが分からないのが残念。 UnexistenceGallery(原田郁ほか)の壁絵はリアルでないリアルさがある。 このグループの作品をもっと観たくなった。 花形槙のカメラを足につけてヘッドディスプレイをして歩き回る実験は楽しい。 目の位置が変わるだけで身体感覚がこんなにも違ってしまう不思議さを再認識させてくれる。 最後に日テレイマジナリウム2023でメタバースを体験した。 ゴーグルを付けた世界は目新しいがリアルには程遠い。 メタバースの日常化はもう少し先でしょう。 *美術館、 https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2023/ □歩く・赴く・移動する1923→2020MOT・Collection ,横尾忠則-水のように,生誕100年サム・フランシス ■作家:鹿子木孟郎,尾藤豊,麻生知子ほか ■関東大震災後の隅田川両岸を歩く。 戦後風景が残る20世紀半ばの清澄白河を歩く。 途中サム・フ