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■印象派、室内をめぐる物語

■作家:フレデリック・バジール,アルベール・バルトロメ,エドゥアール・マネ,ポール・セザンヌ他 ■国立西洋美術館,2025.10.25-26.2.15 ■会場は1章「室内の肖像」2章「日常の情景」3章「室内の外光と自然」4章「印象派の装飾」と続き、観客は部屋や庭を歩き回る設定にみえる。 しかし、どこまでも〈室内〉という空間にこだわり続ける構成が面白い。 年表を開くと、画家たちは日本の明治時代初期に活躍していたことが分かる。 当時の日本の家庭や室内の様子すら明確に思い描けないのに、遠いフランスの室内となると、なおさら想像が及ばない。 それでも、展示されている作品はどれも心を落ち着かせてくれる。 <室内>という空間が安心感をもたらしているのだろう。 描かれている人物の多くは富裕層と思われる。 装飾品だけではなく部屋の模型をみても豊かな生活が窺える。 画家たちは生活のために裕福な家庭を描かざるを得なかったとも聞いている。 理想化した室内を並べることで、画家たちが風景画<室外>を理想化するのと違う論理が働いているところは興味深い。 ただし結果が同じになるのは芸術の所以かもしれない。 見覚えのない作品が多かったのも嬉しい驚きだ。 セザンヌ「ギュスターヴ・ジェフロワ」も記憶にない。 広げられた白いノートが三冊、ロダンの彫刻、花瓶の花・・、セザンヌらしい構成だ。 マネ、モネ、ドガ、ルノワールも堪能できた。 しばらくご無沙汰しているオルセー美術館にまた足を運びたくなってきた。 *オルセー美術館所蔵展 *美術館、 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2025orsay.html

■ダ・ヴィンチは誰に微笑む ■ロスト・レオナルド、史上最高額で落札された絵画の謎

*以下の□2本の映画を観る. □ダ・ヴンチは誰に微笑む ■監督:アントワーヌ・ビトキーヌ ■配信,(フランス,2021作) *映画com、 https://eiga.com/movie/95754/ □ロスト・レオナルド,史上最高額で落札された絵画の謎 ■監督アンドレアス・クーフート,出演:ダイアン・モデスティーニ,イブ・ブービエ,エバン・ビアード他 ■配信,(デンマーク,2021作) *映画com、 https://eiga.com/movie/96547/ ■レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる「サルバトール・ムンディ(救世主)」の真贋や売買の経緯を描いたドキュメンタリー映画を2本観た。 ・・美術商・学芸員・専門家・研究者・評論家・競売会社などの美術関係者に加え、実業家などの入札者が入り乱れ、やがて国家までもが巻き込まれていく・・。 「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」はニュース解説のような構成で事実を淡々と追っていく。 一方、「ロスト・レオナルド」はより捻りをかけて複雑な人間模様や政治的背景にも踏み込んでいる。 果たしてこの絵は本当にダ・ヴィンチの手によるものなのか? その判定は今でも分かれているという。 この「サルバトール・ムンディ」を初めて目にしたとき、脳裏に浮かんだのはイングマル・ベルイマン監督の「沈黙」の一場面だった。 それは、あるモーテルの一室での描写だ。 昏睡状態に近い姉が「ドアの向こうに<あの人>が立っている!」と叫び、乱れる。 しかし妹は否定し「あれは車のライトよ、誰もいない」と答える。 数十年前に観た映画なので台詞は定かではないが、強烈な印象だけは残っている。 キリストの姿はこれまで多くの絵画で目にしてきたが、姉がみた「ドアの向こうに立っていた者」にぴたりと重なるイメージには、これまで出会うことがなかった。 だが、この「サルバトール・ムンディ」を観たとき、その姿がはっきりと結びついたのを覚えている。 ついに、姉の前に<あの人>が現れたのだ!

■ブルガリ・カレイドス、色彩・文化・技巧 ■時代のプリズム、日本で生まれた美術表現1989-2010

*下記□の2展を観る. ■国立新美術館,2025.9.17-12.8 □ブルガリ・カレイドス,色彩・文化・技巧 ■作家:ララ・ファヴァレット,森万里子,中山晃子ほか,会場設計:SANAA,フォルマファンタズマ ■「日本におけるブルガリの展覧会としては10年ぶり、過去最大のスケール・・」とあるように、質・量ともに申し分のない内容だった。 展示会コンセプトは「色彩革命」とのこと。 金(ゴールド)、白金(プラチナ)、そしてダイヤモンドを組み合わせた純粋色のジュエリーに、心が高鳴る。 そこに色石が加わると芸術性が一気に際立つ。 先ずは赤か黄か青、次に緑か紫か橙。 色彩が重なり合うことで暖色と寒色の対比が生まれ、より複雑な象徴性が立ち上がってくる。 目が騒ぎ、脳味噌がピクピクと刺激されるような感覚に包まれる。 デザインはシンプルながら、蛇(セルペンティ)のモチーフも登場する。 作品の多くはブルガリ・ヘリテージ・コレクション所蔵だがサウジアラビア王室や女優エリザベス・テーラーの名前も見受けられ、華やかな雰囲気が垣間見える。     「単色系からサファイア、ルビー、エメラルドを取り入れ、その後アメシスト、シトリン、ターコイズなどに広げていくアプローチはブルガリ・スタイルの特徴となり、色石の魔術師としての名声を確かなものにした」という解説にも納得。 この目でブルガリの色彩史を存分に堪能することができた。 *美術館、 https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/bvlgari_kaleidos/ □時代のプリズム,日本で生まれた美術表現1989-2010 ■作家:森村泰昌,草間彌生,椿昇,村上隆,宮島達男,奈良美智,山城知佳子ほか ■登場する作家は50人と多いが、20年の歴史を扱うには少なく感じられる。 展示は「プロローグ」と「イントロダクション」で始まり、「新たな批評性」、「過去という亡霊」「自己と他者と」「コミュニティ持つ未来」と章が続いていく。 既知の作家や作品が多かったので会場を足早に廻ることにした。 今回は見逃していた映像作品を中心に鑑賞する。 「若き侍の肖像」(小泉明朗、2008年)、「pH」(ダムタイプ、1992年)、「OR、ダイジェスト版」(ダムタイプ、1998年)などを観る。 「仮面劇のためのプロジェクト<ヒ...

■山本理顯展、コミュニティーと建築 ■朝井閑右衛門が描いた街と人間

*下記□の2展を観る. ■横須賀美術館,2025.7.19-11.3 □山本理顯展,コミュニティーと建築 ■建築家・山本理顯(やまもとりけん)が設計した100作品が並ぶ大規模な展示会である。 普通に見て回るだけでも2時間以上かかってしまった。 「閾は出入りするものたちの限界を指し示す」。 作家の言葉が掲げられていた。 <閾>(しきい)とはパブリックとプライベートの境界を指し、社会との繫がりを生み出す」。 彼が提唱する境界概念らしい。 言葉の由来は敷居や鴨居にあると考えられる。 初期の作品には、独立させた室を<閾>という概念で内空間で繋げた一般住宅が多くみられる。 外壁の無い内空間は、偏西風が吹く東アジアでは酷かもしれないが、1970年代後期の邸宅群は境界が明確で、気に入った作品が多かった。 しかし1980年代に入ると独特な屋根をつけた小規模建築が増え、境界も曖昧になってくる。 デザイン的にはやや物足りなさを感じた。 屋根は象徴的な意味を持たせているのだろう。 1990年代は公共施設が目立ち始める。 「埼玉県立大学」や「はこだて未来大学」は内空間を活用し、個室を有機的につなげた構造がみられる。 ガラスの透過性を利用して空間の接続を多様化しており、密空間(プライベート)⇔内空間(コモン)⇔外空間(パブリック)の連携がよりスムーズに感じられた。 2000年代には「チューリヒ国際空港」など社会周辺との関係を意識した大規模施設が増えてくる。 しかし社会との連携といった目に見えない部分は、実際に現地に行ってみないと意見は難しい。 多くの作品に共通して言えることは、周辺コミュニティとの繫がりを重視している点である。 芸術性はやや控えめだが、他者との関係性が維持し易い建築と言える。 「住まいを変えれば、日本が変わる」という理念を体現する建築家の一人だろう。 山本理顯の全体像を知ることができて満足な展示だった。 ところで、美術館前の浦賀水道を大型船が列をなして通過していく風景が何とも素晴らしい! *美術館、 https://www.yokosuka-moa.jp/archive/exhibition/2025/20250719-939.html □朝井閑右衛門が描いた街と人間 ■朝井閑右衛門(あさいかんえもん)の油彩厚塗り絵画が数点並ぶ。 彼は戦後間もなく横須賀にアトリエを構え、横須...

■AALTO アアルト

■監督:ヴィルピ・スータリ,出演:アルヴァ:アアルト,アイノ・アアルト,エリッサ・マキニエミ他 ■配信,(フィンランド,2020年製作) ■数年前、写真美術館で上映した際には見逃してしまったが、ようやく観る機会を得た。 過去の写真と映像を編集しただけのシンプルな構成の映画だ。 アルヴァ・アアルトを語るには、彼と共に仕事をした、妻アイノの存在が欠かせない。 モダニズムの世界で夫婦が共に創作に携わるのは珍しい。 この映画の特長はアルヴァ後半生にも焦点を当てている点だろう。 そこには二番目の妻、エリッサ・マキニエミの存在がみえる。 彼女はアイノに瓜二つだ。 美術展などではアイノが前面に出されることが多いが、この映画では二人の女性を並べて描くことで、アルヴァの真の姿を浮かび上がらせている。 再婚した1952年以降の建築を俯瞰できたことは嬉しい収穫だった。 エリッサ時代のアルヴァは作風が変化したようにみえる。 良い意味で自由奔放になった印象だ。 しかし、利用者からは「贅沢すぎる」「装飾過剰だ」との批判もあったらしい。 とはいえ、この頃の装飾ディテールの面白さは彼の創作の頂点とも言える。 1960年代以降、彼は「保守的な恐竜」と揶揄され、酒にも溺れたという。 アルヴァが亡くなった際「彼は年金生活者だったのか?」と問われ、エリッサが激怒したという逸話も残っている。 二人の女性がいたからこそ、アルヴァは生涯を通じて現役の建築家であり続けることができたと考えられる。 *アルヴァ・アアルト生誕125周年作品 *映画com、 https://eiga.com/movie/97880/ *「ブログ検索🔍」に入れる語句は、アアルト ・・ 検索結果は6ブログ .

■オークション、盗まれたエゴン・シーレ

■監督:パスカル・ボニゼール,出演:アレックス・リュッツ,レア・ドリュッケール,ノラ・アムザウィ他 ■配信(フランス,2023年作) ■フランス地方都市の労働者宅からナチスに略奪され行方不明となっていたエゴン・シーレ作「ひまわり」が見つかり美術界に衝撃が走る。 本作は競売人(オークショニア)アンドレ・マッソンを主人公にしたオークション業界を描いた話である。 しかし、美術系からやや距離がある。 絵画を所持していた労働者や主人公、その助手、彼らの家族関係に多くの時間が割かれているためだ。 略奪された絵画の処理、競売人たちの駆け引きは明確には描かれない。 裏取引の存在を助手から知らされる主人公の経験不足も頼りなく映る。 この映画はフランスの階級社会を描いているように感じられる。 生まれ故郷がどこか?という問が繰り返される点や、家族関係の描写が多いのもその傾向を裏付けている。 終幕に絵を見つけた労働者に拍手が送られる場面があるが、美術界が抱える階層意識への後ろめたさを払拭する意図があるのかもしれない。 フランス人なら作品の背後にある地理や歴史を意識しながら鑑賞するだろう。 しかしフランスから遠く離れた立場の者にとっては、すべてがオブラートに包まれており、深層に辿り着くことは難しい。 表面的な描写を眺めるしかない。 *映画com、 https://eiga.com/movie/102804/

■ブルーフロント芝浦 ■ソニーパーク

*下記□の2建築を観る. □ブルーフロント芝浦 ■設計:槇総合計画事務所他,建設:清水建設,デベロッパ:野村不動産,東日本旅客鉄道 ■竣工,2025.2.28 ■浜松町駅から屋根付きの歩道を行くと10分で「ブルーフロント芝浦・S棟」に着く。 デザインは凸型か? 43階建で賢そうな風体だ。 表面はガラス張で無駄が無い。 槇文彦風かな? 早速ビルに入り低層階やレストラン街を歩き回る。 食事以外の店は少ない。 レストランも並級が多く社員用にみえる。 上階はオフィスとホテルだ。 ビジネスに特化した建物と言ってよい。 隣に建つ(予定の)N棟は2030年の竣工らしい。 ここには旧東芝本社ビルが未だ建っている。 5年もかかるわけだ。 N棟ができないと全体像がみえない。 今のS棟だけではつまらない。 2030年まで待つことにしよう。 周辺を歩く。 芝浦運河を渡り海岸通りを横切ると日の出桟橋に出る。 ビルから海まで10分はかかる。 湾港らしく寂れた感じが漂う。 運河を活用すれば面白いビルとして展開できそうだ。 ブルーフロントの名前が生きるだろう。 *ブルーフロント芝浦、 https://www.bluefrontshibaura.com/ □銀座・ソニーパーク ■設計:ソニープロジェクト,施工:竹中工務店,建築主:ソニー ■開館,2025.1.26 ■外観は足場が築かれている? まるで工事中のようだ。 コンクリート打ちっぱなしの建物だ。 「新しい公園」とある・・? でも休める場所は殆ど無い。 少しの机や椅子も座り心地が悪い。 上階でイベント「TM NETWORK 2025 IP」が開催されていた。 IPとは「体感型知的公園」のことらしい。 ソニーのミッションに「テクノロジーの力で未来のエンタテインメントをクリエイターと共創する」とある。 前身のソニービルはミッションの前半部分しかなかった。 いまは後半部分に移ってしまった。 ソニーは大きく変貌した。 これがソニーパークに現れている。 それにしても味気のない建物だ。 *ソニーパーク、 https://www.sonypark.com/