■ウジェーヌ・ブーダン展 瞬間の美学、光の探求

■作家:ウジェーヌ・ブーダン,エミール・ヴェルニエ,ロイス・デルテイユ
■SOMPO美術館,2026.4.11-6.21
■日本では30年ぶりとなるブーダンの回顧展だという。 印象派展では脇役として扱われがちなブーダンだが、今回は100点もの作品をまとめて鑑賞できる貴重な機会となった。
ブーダンの絵画は、空と海が画面の大半を占める。 まさにコローが評した「空の王者」という言葉が腑に落ちる。 派手さはないが、眺めているうちに心が静かにほどけていくような癒しがある。
彼の描く雲や波は、自然の変化を忠実に写し取っているようだ。 今回の展示で知ったのだが、船乗りの父の影響もあり、ブーダンは「天候を読む漁師の目」を持っていたという。 だからこそ、印象派の画家たちのように色彩に溶け込ませるのではなく、雲や波が現れては消えていく、その一瞬の相貌を確かに捉えている。 ボードレールが述べた「気象学的な美しさ」という表現が、これほど似合う画家も珍しい。
海景から陸景へ移ると、画風は一気にバルビゾン派へ近づく。 トロワイヨンの影響が強いと解説されていたが、そこにコロー風の柔らかなタッチも感じられる。 後半になると、ヴェネツィアの建物の壁には雲の質感が塗り込められ、牛の量感には雲を固めたような重さが宿っていく。 湖や池の水面は不思議なほど静まり返っている。 陸では、彼の“天候を読む力”が対象物に付着しているかのようだが、モノとして力が立ち上がってこない。
やはりブーダンは、何もないようでいて無限の変化が潜む空と海にこそ帰るべき画家なのだと、改めて感じさせられた。